前回のお話はこちら。
2019年6月11日のブログ
「一石二猫:②棚からコリーナ」

一石二猫:②棚からコリーナ

 

 

 

保護したものの、世話をする保護主のKMさんにも、
同じ部屋で隔離生活を送る飼い猫・ともちゃんにも、
なかなか心を許さないコリーナですが、
暴れるわけでも脱走しようというわけでもなく、
彼女なりに保護生活を静かに受け入れているようでした。

 

そろそろ桜の時期になろうかという頃、
里親探しのお手伝いをしていたリンク君という
大人の保護猫へ問い合わせがありました。
リンク君の保護主で、ペットサロン経営のKさん宅に
希望者のAさんが、パートナーの方と一緒に、
お見合いにいらして下さいました。

 

元飼い猫だったと思われるリンク君は人慣れしています。
そんなリンク君を見て、Aさんはおっしゃいました。

「これほど人慣れしているのですから、
リンク君を迎えたいという方は、きっと他にもいると思います。
私達は、希望者がなかなか現れず貰われにくいような保護猫を
迎えたいと思っているのですが、そういった保護猫は他にもいますか?」

ありがたいお言葉です。

そこで、Aさんのご希望に添わない…とは思ったのですが、
その足で我が家に寄っていただき、とりあえず、
庭にいるニャース、トントン、くらら、ポッちゃん、
の4匹を紹介させていただきました。

ニャースとトントンは抱っこ出来ますし、
くららとポッちゃんは撫でさせてくれます。
それは、かなり人慣れしている証拠ですから、
Aさんの食指はあまり動かなかったようです。

 

 

次に、すぐ近所にいるKMさん宅のコリーナを紹介しました。
KMさんは外出中でしたが、連絡するとすぐに帰宅して下さいました。
あまり触っていると怒って手を出すコリーナですから、
怪我をされては困ると、KMさんは豚革のグローブを差し出しました。
Aさんはグローブをはめる前に素手でコリーナの背中をそっと触りました。
「あれ、大丈夫みたい」と、そのまま背中を撫でていると、
「バン!」と、コリーナが手を出しました。

「怒っていますけど、触らせてくれるんですね。可愛いです。」

そのように受け取るんですね、Aさんという方は。
普通ならば「え、ちょっと、怖い」となるところです。

 

「まだ人慣れにはもう少しかかると思うので、
不安が残るようでしたら、無理しないでくださいね。」
とAさんに伝えました。

 

お見合いツァー、こうなったらもうついでです。
IKさんが昨年の夏の終わりに保護した猫一家の母猫で、
なかなかご縁が見つからないままIKさん宅で過ごしている、
黒猫リンにも会っていただきました。

 

リンは、噛む、手を出す、といったような攻撃性はないのですが、
簡単に触ったり抱っこしたり出来るような猫ではありません。
むしろ、人の手から逃げるようにして過ごしています。
IKさんご一家のうち、自宅の滞在時間が一番長い、
IKさんの娘さん・ナナちゃんはリンを確保できますが、
IKさんや息子さんが確保しようとすると逃げます。
IKさん宅の飼い猫達とはうまく付き合いながら暮らしています。

最後のリンとのお見合い後、Aさんはおっしゃいました。

「二人でよく話し合ってみます。」

 

 

コリーナの保護主・KMさん、リンの保護主・IKさん、そして、私。
正直なところ、どちらの猫もちょっときついかも・・・と、
あまり期待はしていませんでした。

 

 

ところが、お見合いから数時間後、
「コリーナちゃんも、リンちゃんも気に入っています。
慣れていない猫2匹を一緒にというのは、無理でしょうか。
その前にまず、トライアルをさせていただけるかということも
あるのですが…。」

という連絡が来ました。これにはビックリです。

 

猫と猫、人間と猫。
これから先、ずっと一緒に暮らしていくわけですから、
必ずトライアル期間というのを設け、様子を見て
判断していただくことになります。

 

コリーナはしばらく一緒の部屋で過ごしていた
飼い猫のともちゃんにあまり友好的ではありませんでしたので、
1匹飼いの方が向いているかもしれないという印象はありました。
また、リンに関しては、人間に対してはイマイチですが、
猫と一緒にいる方が落ち着いているように見えます。

この2匹は、ぴったりという組みあわせではなさそうです。
どうなんでしょうか。会わせてみたい気もします。
コリーナがリンを受け入れるのかどうかがポイントです。

 

お届けは21匹づつ時間差で、ということになりました。
まず、1匹で過ごした時間の長いコリーナを最初にお届けし、
1匹で過ごしたことのないリンを、後から合流させます。

 

 

◆4月13日◆

未だ人に対して頑固な態度のコリーナをAさん宅にお連れしました。
保護以来、コリーナが部屋として使っている三段ケージと一緒です。

 

 

その後2日間近く、トイレは使うものの、ハンガーストライキ。
時間の経過とともに、徐々に動きが見られるようになりました。
明るい時間帯や、Aさん達が部屋にいる時は、置き物状態ですが、
ケージの扉を開けると、夜中に部屋を歩き回るようになりました。
Aさん達の体を踏みつけながら、布団の上を横切っていくのだそうです。

「コリーナはどうも人間の手が怖いと感じているようなので、
あまりこちらから無理に触ったりしないようにします。
慣れてきちんと触らせてくれるようになるまでには、
1年か、もっとかかるかもしれませんが、
コリーナが自分からこちらに歩み寄ってくれるまで、
焦らず、ゆっくり待つつもりです。」

コリーナに関してのAさんのお気持ちがよくわかりました。
あとは、そこにリンが加わったらどのようになるか?
ということだけです。

 

 

 

 

◆4月29日◆

コリーナに遅れること2週間ちょっと。
Aさん宅に、ケージごとリンをお届けに伺いました。
リンは予想通り、ハウスの奥に隠れています。
コリーナは、隣のケージの中で不動のまま警戒中です。

 

 

リンもまた、最初の数日、食べることを拒否していました。
新しい環境や、コリーナに対しての警戒心というより、
いつもの仲間(IKさんの飼い猫達)がいないことに、
不安を感じているようでした。

 

KMさん:
「難しいと判断されたら、どうぞ遠慮なさらずに
コリーナを戻して下さっても、こちらは大丈夫です。」

IKさん:
「心配なのはコリーナちゃんとの相性だけです。
一緒に過ごしているのなら、問題ないと思います。」

 

新しい環境で、一進一退の毎日を過ごす2匹。
グルーミングし合ったり、猫団子にはなるわけではありませんが、
リンとコリーナは、威嚇し合ったり、喧嘩することもなく、
自然と、トイレや同じスペースを共有するようになりました。
彼女達なりに、折り合いをつけたようです。

 

(手前がコリーナ、奥にリンの耳が見えます)

 

トライアル開始からしばらく経った頃、
Aさんは、以前飼っていた人懐こい猫を思い出し、
若干の寂しさを感じた時期もあったようですが、
コリーナとリン、猫同士、問題なく過ごしているので、
あとは私達が見守るだけです、と連絡が来ました。

コリーナとリンは、正式にAさんの飼い猫になりました。

コリーナはあさり、リンはしじみ。
新しい名前をつけていただきました。

 

 

 

 

 

「ただいま」と帰宅すれば、玄関で迎えてくれる。
すりーっと寄って来て、ちょこんと膝に乗る。
撫でれば気持ちよさそうにゴロゴロと咽喉を慣らしだす。
一生懸命、必死で鳴いて、ご飯を催促する。
夜中に、そっと布団に潜りこんできて一緒に寝る。
パソコンの作業中にはキーボードの上に乗り、
新聞を読んでいれば、新聞のど真ん中に坐って、
そんなことしてないで、自分を構え!とアピールする。

猫を飼いたいと思う時、猫と暮らしたいと思う時、
私達が想像するのは、そのような光景ではないでしょうか。

 

 

コリーナとリンが、そのレベルに達するまでには
まだまだ時間がかかりそうです。
外で生まれ、外で大人の野良猫に成長した子達です。
人間に寄り添って生きてきた子達ではありませんから、
そう簡単にはいかないかもしれません。

しかし、全く変化がないかと言えば、そうでもない。
どちらも保護から時間が経っていることもありますが、
室内で過ごすという日常生活を受け入れています。
最初の高いハードルはとっくに越えている。
地味ですが、彼女たちの過去を思えば大きな変化です。

 

IKさんに保護され、室内で自由に動き回り、
他の猫達との暮らしに先に慣れたのはリンです。
今は、新しい環境でまだ委縮しているリンですが、
やがてまたIKさん宅で過ごしていたような姿に
なるでしょうし、そんなリンを見ながら、
コリーナも徐々に変わっていくのでは?と思います。

コリーナもリンもまだまだ家庭内野良猫の状態。
でももう野良猫ではありません。

「ふたりを見守っていこうと思います」と
引き受けて下さったAさんという飼い主さんがいます。
Aさんに守られて、Aさん宅で一生を過ごすのです。
Aさんには心から感謝です。

 

そして。

 

KMさんご夫妻にも感謝の気持ちでいっぱいです。
脱走したともちゃんを捕まえるだけで良かったはずなのに、
たまたま捕獲器に入ってしまったコリーナをリリースせず、
保護して、辛抱強く世話をして下さったおかげで、
今回のご縁に繋がりました。

そうでなければ、コリーナはずっと、
外での厳しい野良生活を送ることになっていたでしょう。

 

KMさんご夫妻に初めてお会いしたのは、
1台目の捕獲器をお届けした時でした。

ご主人も奥さまもどちらもイニシャルがKMさんで
ややこしいので、奥さまをKMさんと呼び、
ご主人はKMさんのご主人と呼びます。

KMさんは、行動力のある、気さくな方です。
ともちゃんが脱走してからの動きには無駄がなく、
頼もしい方だという印象を持ちました。

ともちゃん捜索の打ち合わせをしている時に、
KMさんのご主人にもお会いしました。

あら?以前どこかでお会いしたことがある…と思いましたが、
それは、しょっちゅう、ご主人の顔を、
近所に貼示してあるポスターで拝見していたからです。
ご主人は市川市議のKさんでした。
(Instagramの方では、実名で紹介させていただいています。)

 

 

 

どこの市町村にも問題は山積みです。
人間第一で問題を解決していくことは、当然のことですから、
飼い主のいない猫に対する取り組みは、ずっと後回しになるか、
議題にあげられることもほとんどないのかもしれません。

しかし、コリーナもそうですが、飼い猫ともちゃんも、
もとはご自宅近くでKMさんご夫妻が保護した野良猫です。

私達市民の代表として、市政に関わっている方が、
ご自身がお住まいの地域に生息していた、
2匹の野良猫をその手で救って下さったということは、
飼い主のいない猫たちの為の活動の一端を
担って下さったということになります。

 

とても心強く、また嬉しく思うと同時に、
その行動が住民達にもっと周知され、
後に続く方々が出て来ることを期待しています。

 

 

The end.

 

 

PS:コリーナと一緒に貰われたリンについての詳細は、
別ブログで報告予定です。