ねこ藩Sさんが10年以上もお世話をしてきた、
くぅちゃんというサビ猫がいました。
昔、隣町に住む方とSさんがお金を出し合って
くぅちゃんの避妊手術を済ませ、
2人で給餌をしてきましたが、
3年前に隣町の方が手を引いて以来、
Sさんがおひとりでくぅちゃんの給餌を続けてきました。
これだけ長い間お世話しているSさんにも、
くぅちゃんがどこで寝泊まりしているのかは謎です。
くぅちゃんは、毎日夕方の決まった時間、
Sさんの自転車の音を聞きつけて、必ず姿を見せますし、
時にはSさん到着の前に、既にスタンバイしていることもあります。
給餌の場所は、小さな公園に隣接する駐車場。
駐車場には車2台分程の人工芝が敷かれた部分がありますが、
その上や、車の下に潜って長い時間を過ごしているようです。
クルルと可愛い声で鳴き、抱っこできる程おとなしい猫です。
この駐車場は、地域猫の世話をする現場として、
所有者から許可をもらっていない場所です。
その為、隅にある車の横でひっそりと目立たないように
Sさんはくぅちゃんに給餌していました。
あらかじめ容器に入れたレトルト等を持参してくぅちゃんに食べさせ、
給餌が終わったら、ちらばったフードは片付け、ゴミを拾い、
近くに糞があればそれも拾って、容器を持ち返る。
そのルーティンを10年以上も続けてこられたわけです。
3月初旬、その駐車場所有者の不動産会社がポスターを掲示しました。
Sさんが駐車場で給餌していたのは
地域猫のくぅちゃん1匹だけでしたが、
実は他にも2匹の猫達がいました。
薄い茶系の猫は、駐車場近くに住む方が
ご自宅の庭で給餌している地域猫ですが、
しょっちゅう、駐車場に出向いてきています。
もう1匹の猫は、近所の出入り自由の飼い猫だそうです。
犬の散歩で隣の公園を訪れる方も多く、
自然と、隣接した駐車場にうろうろとしている猫達が目に入る状況。
犬を連れた飼い主さんの中には、猫に餌をあげている人もいますが、
恐らく、それが地域猫なのか、出入り自由の飼い猫なのか、
の区別はついていないと思います。
猫達に餌をあげる方の中にひとり、
白い容器を置きっぱなしにする方がいます。
猫がお腹をすかせているだろう、という優しい気持ちで
餌をあげているのだとは思いますが、
そういった行為が、地域猫の管理場所では仇となることがあります。
もちろん、その駐車場は正式に認められた地域猫現場ではないのですが、
Sさんはそれを十分にわかっているからこそ、
迷惑がかからないようにこっそりと、
しかし、きっちりと給餌を続けてきました。
だから10年以上も給餌を続けることが出来たのだと思います。
さて、このようなポスターを掲示されてしまった以上、
さすがのSさんも、これはもうだめだと判断しました。
しかし、10年以上も世話をしてきたくぅちゃんです。
年齢はもうとうに12才を過ぎています。
自分が給餌に来なくなれば、くぅちゃんは食事にありつけない。
かと言って、くぅちゃんを自宅に連れて帰ることもできない。
家で飼ってあげられるのであれば、とっくにそうしていたでしょう。
それが出来ないから、10年間、雨の日も雪の日も、
駐車場に通ってくうちゃんの世話をしてきたのです。
困ったことになりました。
ところが・・・。
長い間、くぅちゃんの給餌をしてきたSさんは、
犬の散歩に来る飼い主さん達の何人かと顔見知りになっています。
そのひとり、Iさんという主婦の方に今回の事情を話すと、
「我が家も複数の犬と猫がいるのでこれ以上は室内で飼ってあげられない。
でも、玄関外にケージを設置すれば、そこでくぅちゃんの世話は出来る。
雨風が凌げるようにきちんと屋根も覆いも取り付けるし、
ずっと世話をしていくから、それでもいいというのならば、
私が面倒を見ます。早いうちにくぅちゃんを連れて来て下さい。」
と言って下さいました。
猫をケージに閉じ込めて飼うこと。
しかもそのケージを庭に置くこと。
そんな飼育の仕方に反対意見を唱える人も多いと思います。
では、反対する人がくぅちゃんを引きうけてあげられるの?
NOでしょう。
もちろん、高齢のくぅちゃんを室内に入れて
飼ってあげられるのならばそれが最善の方法です。
でも、Sさんにはそれが出来ません。
給餌をやめて、くぅちゃんをほっぽり出すのも無責任だと考えています。
今のところ他に方法がないのです。
SさんはくぅちゃんをIさんに託すことにしました。
雨が続いたり、私とSさんの予定が合わなかったりして
数日間、くぅちゃんとIさんをお待たせしてしまいましたが、
3月8日の午前中、Sさんが金属ケージを現場に持参し、
くうちゃんを確保、ふたりでくぅちゃんを病院に連れていきました。
年齢:推定12-3才
体重:3.1㎏
○三種混合ワクチン 2500円
○血液ウィルス検査(猫エイズ・猫白血病共に陰性) 3300円
○駆虫(プロフェンダーとフロントライン) 2000円
○抜歯・怪我の処置と抗生剤 4000円
○耳掃除・爪切り
合計 11800円
グラグラしていた上顎の犬歯を抜歯。
右前足に怪我をしていたので、膿を出し、洗浄消毒。
診察の間、私とSさんはノミ取り櫛で、
くうちゃんの毛を梳き、毛玉を取り除き、
湿らせたタオルで長年の汚れをふき取りました。
くぅちゃんには風邪の症状も見られませんでした。
病院を出るとその足で、Iさん宅に向かいました。
Iさんは既にケージの準備を済ませていました。
古いテントを利用したケージカバーは、しっかりと防水。
温度が下がる晩はその上に毛布をかけます。
トイレもベッドもOK。
病院で抜歯やキズの処置があり、
軽く鎮静剤を打ってもらっていましたので、
まだ覚醒しきっていない、くたっとなったくうちゃんを
ケージの中に入れました。
駐車場の小砂利の上で生きてきたようなくぅちゃんですから、
トイレの大粒の猫砂が気に入っているのかもしれません。
トイレの大小を済ませた後も、トイレに坐っていたそうです。
Sさんが時々、くぅちゃんの様子を見に通っています。
今回はたまたま、Iさんという優しい方が
くうちゃんを引きうけて下さいましたが、
そのような方がいつも現れるとは限りません。
あちこちで地域猫の世話をしている方々をこの付近でも見かけます。
そして、ほとんの方が高齢者であり、
世話をしている猫も1匹2匹ではない。
人間側に何かあったら、猫達はどうなるか。
ポスターが掲示された直後は、
たった1匹の地域猫・くぅちゃんの行く末さえ
危うかったのです。
飼い猫だろうが、
室内の保護猫だろうが、
外猫だろうが、
地域猫だろうが、
自分に何かあったら、どうなるか。
引き継いでくれる人間がいるのか?
誰かが何とかしてくれるだろうと、
勝手に想定・期待していないか?
普段から策を講じておくことの大切さをあらためて実感した1件でした。
補足)
くうちゃんが長年この地域の地域猫であったこと、
Sさんがねこ藩に多大な寄付・協力をして下さっていることを考慮し、
医療費はねこ藩の資金から支払わせていただきました。