前回のお話 ↓
2025年2月11日のブログ
「ロイ君の5日間:前編」

 

 

 

 

「朝ご飯を食べに久しぶりにロイ君がきたのですが、痩せてきているようです。
歳がいってそうな子だから、腎臓かな、と思いました。」

 

2024年夏、Nさんからこんな連絡が来ました。

 

 

 

 

 

Nさんは地域猫達に安価なフードではなく、
ピュリナワンを与えていました。
思慮深く観察力のある方です。
久しぶりに現れたロイ君の変化にすぐに気づき、
心配されていました。

 

 

 

腎不全は猫がかかりやすい病気のひとつ。
猫はもともと大量の水を飲む習慣のない生き物。
外の猫に限らず、室内飼いの飼い猫であっても、
年月を経て腎不全になる確率は高いと言われています。

多かれ少なかれ、一度損なわれた腎臓は元には戻りませんので、
更なる進行を止める為の投薬治療が一般的ですが、
薬やサプリは決して安いものではありません。

 

 

 

地域猫って、不妊手術をしてその後ご飯をあげるだけじゃないの?
健康管理なんて、そんなことまでするの?

と、おっしゃったボランティアの方がいました。

 

 

●不妊手術をする
●決まった時間に給餌する
●排泄物の片づけをする
●活動について周辺住民の理解を得る

 

 

これが地域猫活動の基本的なルールで、
「健康に問題のある地域猫に医療行為を施す」
という項目はありません。

何とかしてやりたいと思えば、再捕獲して通院。
再捕獲が難しければ、動物病院で処方してもらった薬を与える。
人間が手をかけることはせず自然に任せておく。

そこは、世話をしている人間の考え方次第です。

 


Nさん撮影のロイ君。立派なしっぽです。

 

庭にはやって来るが、毎日ではないから
継続的に投薬はできない。
地域猫であって、自分の飼い猫ではない。

恐らくこういった理由からだと思いますが、
Nさんは積極的にロイ君に関わることを選ばなかったようです。
それは珍しいことでも悪いことでもありません。
地域猫への対応はそれぞれですから。

 

 

 

 

それから半年後の2025年1月末。

定期的に地域猫の状況を知らせて下さるNさんからLINEが届きました。

「ロイ君がボロボロでヨタヨタしている。
いつ何が起きてもおかしくない感じがします。
我が家の敷地内でことが起きた時は、うちで看取りや後始末をします。
ロイ君のお世話をなさっている他の方にお伝え願えますか。」

 

 

ロイ君にご飯をあげているNさん、Kさん同志は対面したことがなく、
ロイ君に関する話しは私を介して・・・のような感じになっていましたので、
これは、お二人で「ロイ君に何がしてあげられるのか」を
話し合った方がいいのではないかと思い、
Nさん、Kさん、H(私)で、LINEのグループトークを作成しました。

 

 

 

 

これまでに、NさんやKさんから何度か画像をいただき、
ロイ君の外見はわかっていましたが、
私自身はこの目でロイ君を見たことが一度もないのです。

 

 

ロイ君のお世話をされている方が複数いることから、
ロイ君に関して私がそこに割って入り、
ああだこうだ言うことでもないと思っていましたので、
LINE上で交わされるお二人のやりとりがどうなっていくのか、
しばらく読ませていただくだけにとどめておきました。

 

 

 

「痩せてはいますがよく食べています」
「彼は猫風邪持ちで鼻がブズブズいってます」
「ご飯を未消化のまま吐いていました」
「寒くなりそうで心配ですね」
「腎不全末期なのに、よく道路を渡ってこちらにきたものだと思います」
「うちの庭のハウスに入っていましたが、いなくなりました」
「今、うちの駐車場に来ました」
「息をするのもやっとのようです」
「ハウスから出てバルコニーに座っています」
「ロイ君がうちの外のハウスに入っていますがどうしますか?」
「よろめきながら庭の木の小屋にもぐりこみました。逃げる体力がないようです。」

 

そんな状態になっても、ロイ君は、
Nさん、Kさん宅の間を行ったり来たり移動しているようです。

 

 

 


Kさん宅の小屋に入って体を休めるロイ君。

 

 

 

ちょっと失礼な言い方になってしまいますが、
そのやりとりを拝読していて、
「ロイ君が亡くなるまでの実況中継」を
聞かされている気分になりました。

 

 

そのうち実況報告が、

「もう歩けないようで座り込みました」
「倒れて動かなくなりました」
「死んだようです」

なんてことになるんじゃないだろうか。

 

今どちらの家にいるとか、
どのくらい弱っているといった報告会ではなくて、
猫生の終末期を迎えているロイ君に
何をしてあげられるのか・・・。
そう考えていただくことを期待していました。

 

 

 

Nさんは、
「自宅敷地内で彼に何かあれば最期の送りはしますが、
心許していない私が彼を捕獲して病院に連れて行くつもりはありません。
受診によって回復の見込みがあるのならそうしますが、
それは見込めないと思います。怖い思いをせず、このまま
自然に安らかに逝ければと思います。」
というスタンスをはっきり言葉にしていました。

 

自宅敷地というところにポイントを置いておられるようで、
Kさん宅でロイ君が行き倒れれば、清掃課に連絡するなり何なり、
そちらでご自由に。

ということなのだと、これまでNさんの言葉から感じました。
それがNさんと地域猫との関係であり、他人がとやかく言うことではありません。

 

 

 

一方、Kさんはロイ君のことをとても心配して気にかけていましたが、
ロイ君を室内に入れて最期を看取るというお気持ちはないようでした。
室内には飼い犬や飼い猫がたくさんいることも理由かもしれませんが、
まず何より、例え可愛がっていたとしても、
人に慣れていない病気の地域猫を室内で看取るなんてこと、
考えもしなかったのでしょう。

 

 

どうしますか?
どうしましょう?

 

Nさんの「例え死にゆく子であっても外の子」的な考え。
Kさんの「どうにかしてあげたいが・・・(できない)」的な思い。

 

最初はロイ君のことはお二人にお任せしたいと思っていましたが、
自分自身、事の成り行きに違和感を感じ始めていました。

 


ハウスの中でずっと寝ていて暑くなったのか、
外に出て風をあび体を冷やしているようです。

 


猫風邪の悪化で目も酷い状態。

 

 

 

 

病気の地域猫への対応に関して、
必ずこうしなければならないというマスト項目も法律もありません。
関わっている人間が、
「何をしてあげられるのか」「どうしたいのか」
によります。

 

 

 

 

うまく言葉に出来ずもどかしいのですが、
「動物愛護」と「動物福祉」の混ざったようなもの、
この中からふわっと出てきた漠然としたものが
私の頭と心の中に雲のように広がっていました。

 

 

 

私が庭で世話をしている地域猫のベンジャミンとくらら。
まだまだ元気いっぱい、食べてばかりでで丸々と太っていますが、
いつか、必ず彼らにも最期は訪れます。

近所にお住まいの方が、
「今うちにくららちゃんが来ています。よろよろして倒れそうです。」
なんて連絡を下さったとします。

「ああ、それはうちの敷地外のことですから、どうぞご自由になさって下さい」
なんてこと、私にはとても言えません。
というか、そんな考えはどこをどうたたいても出てきません。

すぐに飛んで行ってくららを連れ帰り、家の中のケージに入れて、
最期のお世話をさせてもらうでしょう。

 

 

外にいる猫のステータスは、それまでに出会った人間によって決まってしまいます。

 

ロイ君のような外で生きる人に慣れていない猫は、
生まれてから今まで、保護されて飼い猫になる機会もなく、
また保護しようとする人間との出会いもなかった。
(あったかもしれないが実現されなかった。)
そのために、人と距離を置きながら
住宅街で生き延びる野良猫としての生き方しかなかったのです。

 

 

猫は死ぬ前に姿を消すといいますが、
それは死に場所を探して消えるわけではなく、
自分が弱っている姿を見せないようにしながら
体力が回復するのを待つために隠れるのです。
隠れている場所でそのまま亡くなってしまうことも多い。

あちこちを歩き回って生きてきたロイ君ですから、
姿を見せなくなってそのままどこかで・・・
という可能性は高いと思いました。

 

ずっとひとり。
死ぬときもひとり。

 

 

 

ロイ君にとっては迷惑かもしれませんが、
私にはそれが堪らなかった。

 

 

 

会ったことのないロイ君でしたが、
最期の限られた時間、ロイ君に寄り添ってあげるのではなく、
私が彼のそばにいたいと願っているのだと気づきました。

 

 

そして、ずっと世話をして下さっていた方々が、
最期のお世話が出来ないのであれば、
私が引き受けたいという気持ちになりました。

 

 

 

出来ることは少ないかもしれないけれど、
病院に連れて行き、我が家の室内で彼を看取る。
そう、お二人に伝えて、速やかに療養ケージの用意をしました。

 

 

 


久しぶりに出現したケージに興味津々の飼い猫こまつ。

 

 

そうとなったら、確保です。
Kさんは、弱っているロイ君を捕まえようとしましたが、
逃げられてしまいました。
ロイ君には抵抗して逃げようとする力がまだ残っているのです。

 

 

2月2日、早朝。
Nんがロイ君に洗濯ネットをかぶせて確保し、Kさんに預けたので、
私はKさんと一緒に、キャリーに入れられたロイ君を病院に連れて行きました。

 


キャリーをのぞき込むとシャーシャーです。

 

 

 

弱っていてもキャリーの中で威嚇をするロイ君。
動きもまだそれほど緩慢ではなく、
鋭い猫パンチを出してこようとするので
軽く鎮静剤を打ち、薬が効いてくたっとなったロイ君を
診察台の上に寝かせました。

誰がどう見ても、残された時間が少ない猫の姿です。
出来ることは限られていました。

〇駆虫薬ネクスガード
〇抗生剤コンべニアとバイトリル
〇栄養・水分補給のためのソルラクト(ブドウ糖液)点滴
〇ゲンタマイシン点眼

室内でお世話をすることになりますから、
爪切りと耳掃除を済ませ、体もできるだけきれいに拭きました。

 


体格がよく立派な毛並みだったロイ君。こんなに痩せてしまいました。


犬歯はしっかりとしていましたが、他の歯は抜け落ちてボロボロ。

 

採血検査とウィルス検査はしませんでしたので、
腎不全の数値も、猫エイズウィルスの有無もわかりません。
この段階でそんなことを知る必要はないと思いました。

 

病院での処置が終わると、ロイ君を自宅に連れ帰り、
1階廊下に設置したケージに入れ、
彼をうちの子として迎え入れました。

 

続く・・・