前回のお話はこちら。
2020年4月16日のブログ
人は去り、猫が残る:③受け手のないバトン。

人は去り、猫が残る:③受け手のないバトン。

 

 

(4)田川邸

以前、私が町内のある路地を自転車で通り抜けている時、
突然、上から何かが降ってきたことがありました。
地面にパラパラと落ちたものは、ちぎった食パン。
見上げると、住宅の2階の窓から男性が顔を出しました。
60代後半~70代くらいの男性でしょうか。

 

「あ、申し訳ない。下に猫がいたので、ご飯やろうと思って。」

 

そう言うと、男性は窓を閉めて中に入ってしまいました。

それ以来、食パンの耳を食べているらしい猫を調べるために、
私はなるべくその路地を通るようにしていました。

その男性=田川さん宅の玄関前の、室外機の影に、
いつも小さな寿司桶が置いてありました。
その中に食パンやご飯が入っていることがあったので、
田川さんは、庭で猫に餌やりをしている方だとわかりました。

 

 

 

ある日、田川邸玄関横の室外機に、
耳カットのない2匹の猫が座っているのを見ました。
白猫と黒猫で、若くはなさそうです。

 

後日、たまたま外に出ていた田川さんと話をする機会がありました。

昔、田川さん宅隣りに高齢者夫婦が住んでいて、
そのご夫婦が白猫と黒猫に餌をやっていた。
2匹ともご夫婦の庭で寝泊まりしていたようなので、
出入り自由の飼い猫か、外猫だったのだと思う。
数年前、そのご夫婦がいなくなり、猫が置いていかれた。
猫達は隣の敷地でお腹を空かせていたようなので、
気の毒に思って、玄関に餌を置くことにした。

 

田川さんは、昔の方のように、人間のご飯の残りを
猫に与える方でした。

 

痩せているわけではなく、太っているわけでもない。
猫達はごく普通の体型でしたが、体長が長く見えました。

田川さんによると、もう数年間、餌をあげているが、
子猫が生まれたことが一度もないそうなので、
どちらもオスだと思われました。

 

しばらく経った頃、田川さんの玄関前で、
私が2017年1月に、自宅庭でTNRしたマルオを見ました。

田川さん宅によると、近所のどこかのお宅を寝床にしていて、
最近、時々、田川さん宅にやって来るようになったので、
ついでにマルオにも餌をあげているとのこと。

TNR後はパッタリと我が家の庭に来なくなり、
消息がわからなかったマルオが、結構近い場所で
丸々し過ぎた姿で元気にしていると知り、安堵しました。

 


2017年1月、我が家の庭で。

 


田川邸でのマルオ。

 

 

 

 

2年程前、田川さん宅の隣に2件の新しい住宅が建ちました。
その住宅の敷地には、とげとげシートが敷かれ、
部分的に家庭菜園用の緑のネットも張られていました。
新築の住人が、猫に入られないような工夫をしているのです。

 

 

 

この土地でもうずっと前から暮らしていた2匹の猫。
高齢者夫婦と一緒に暮らし、高齢者夫婦に置いていかれ、
気の毒に思ってご飯をくれる田川さん宅で過ごしていた猫。
しかし、猫よりもずーっと後からこの場所にやって来た、
新しい住人には受け入れられず、迷惑な存在と思われている。

 

猫目線の考え:
ずっと昔からこの場所にいたのは自分達で、
なぜ後から来たお前に居場所を奪われなくてはならないのか。

 

人間目線の考え:
高いお金を出してやっと手に入れたマイホームなのに
猫が敷地に入ってきて、その糞尿で迷惑をしている。
お隣のおじさん、猫に餌をやるのやめてくれないかしら。
そしたら、猫達はどっかに行ってくれるのに。

 

どちらの言い分も筋が通っています。
どちらが正しくて、どちらが悪い、
という話ではないのです。

 

 

 

分譲住宅を販売した業者だって、
その土地に猫がついていたことを知らないだろうし、
例えそれを知っていても、
「ここは、界隈の猫達が住み着いていて、
トイレに使っている土地なので、糞尿被害付きですよ~。」

なんてこと絶対に言うわけはないでしょう。
土地を売ってしまいたいわけだから。

 

 

人間側の事情を猫が理解できるわけがありません。
新築のお家をトイレに使ったら悪いからやめよう、
なんて、猫が気をきかせるわけがない。

長い間、自分達の場所として占有していた土地ですから、
空き家だろうが、さら地だろうが、新しい建物が建とうが、
そこは猫の生活上、不変の排泄場所であり、
自分の生きる場所と決めているんです。

理屈ではなく、これは猫の本能なんです。

 

 

詳しくはわかりませんが、田川さんはご病気で入院されたのか、
どこかデイサービスのようなところに行き始めたのかもしれません。
田川さん宅の前を通っても、全く人気を感じなくなりました。

そして白猫も黒猫もいなくなってしまいました。
この界隈では一度も見かけていません。
高齢の猫でしたから、もう生きていないのかもしれません。

(2匹の写真を撮っておけばよかった。
だいたいいつもあの場所にいるからと思っているうちに、
猫達はいなくなってしまった。)

 

 

マルオはすぐご近所の沢井さん宅でご飯を貰っています。
沢井さん宅駐車場に、ハウスも置いてありますが、
マルオは使っていないようですので、
他にもマルオの居場所があるのだと思います。

 

 

 

 

(5)HM邸路地

 

これは、猫が置いて行かれたわけではないので、
ちょっと違うケースです。

 

我が家から1本向こうの通りに、
7軒の住宅とアパート1棟が並ぶ、静かな路地があります。

 

 

 

もうずっと前のことですが、路地に野良猫が多いかった為、
その対策として、住人の方々がボランティアに連絡を取り、
5匹の猫達のTNRを済ませました。

TNR後の猫を地域猫として路地で世話をすることに、
全てのお宅が大賛成、というわけではありませんでしたが、
HMさんのお宅を給餌の場所とし、寝床やトイレを設置して、
糞尿等の掃除をする、ということで地域猫が成り立っていたのです。

3軒のお宅が中心となって、猫の世話をし、
認めてはいるものの、猫の糞尿や侵入を避けたいお宅は、
とげとげシートやネットで猫除け対策をしています。

 

3年程前、積極的に猫の世話をしていたアパート住人の女性が、
内縁の男性と別れることになり、引っ越して行きました。

猫の世話をするのは、給餌場所となっているHMさん、
そして路地入口のKTさん2軒になりました。

昨年、HMさん宅向かいに住むご高齢ご夫婦が引っ越して行かれ、
息子さんご一家がご両親の家を壊して新築の住宅を建てました。

 

ある日、息子さんが

「野良猫に餌をやるの、やめてもらえます?
うちの庭に猫の糞があって迷惑してるんです。」

と怒りの口調でHMさんに注意したそうです。

 

 

HMさんは、

「これは住人の皆さんの了解を得ている地域猫です。
あなたのご両親もそれは十分にご存じのはず。」

と説明しました。

 

 

数日後、息子さんは呆れ顔で言ったそうです。

「母に聞いたら、そんなこと知らないって言ってますよ!」

 

 

HMさんは困り果ててしまい、
千葉県動物愛護推進員のKさんと一緒に、
息子さん宅に、再度、説明に伺いました。

 

息子さん宅の、路地に面した部分に、
糞(その他のゴミも)があるのに気がついたら、
HMさんが片付けるということで、
一応、路地の苦情の件は収拾しました。

 


HMさん宅門前のチビ。
この路地は茶トラが多い。

 

 

その息子さんというのは警察官だそうです。
警察官は、地域猫を知らないんですね。

 

先日、HMさん宅向かいのそのお宅では、
どのような猫除け対策をしているのかと気になり、
路地に見に行ってきました。

 

敷地には入れませんから、路地から、
「これか・・・」
と見ていると、路地の入口辺りから
「何してるんですか!?」
と強い口調の質問が飛んで来ました。
30代後半くらいの気が強そうな女性です。

 

許可をいただいた上で、庭の猫除けシートを撮影しました。

 

「このシートを置いて、効き目はありますか?」
「ないです。その上に糞が載ってることもありますから。」
「でしょうね。」

 

 

この路地の地域猫達もうシニア期に入っています。
先月、HMさんから、4匹いる茶トラのうちの1匹が
いなくなったと聞きました。
体調が悪そうに見えたと思ったら、
全く姿を見せなくなったそうです。

「もし庭で亡骸を見つけたら教えて下さい。
最期はきちんと弔ってあげたいから。」
と、HMさんはご近所を訊ねて回りました。

 

 

 

 

 

 

 

新築住宅の住人が猫除けをしているのを見ると、
私はこう思うことがあります。

土着の先住民族が、
他大陸からの入植者に迫害され、
故郷の地を追われる。

 

後から来た新入りの方が決定権を持ち、
武力行使や勝手なルールで土地を奪い取り、
先住民族を亡き者にするか、
まとめて僻地に移動させたという歴史。

 

 

人と猫の関係にも同じことが言えると思いますが、
この世は人間が作った法律で成り立っている人間社会です。
飼い主のいない猫に権利などあるはずもない。

私は、猫の本能や習性について自分が知っていることや、
猫に危害を加えない方法で人間が工夫するしかないことを、
伝えることしか出来ません。

「猫のきもち」の代弁者にでもなろうとしたら、
あの人ヤバイ=キチガイ動物愛誤という烙印を押され、
変人扱いされておしいまい、で終わるんでしょうね。

社会の中の自分という立場も大切にしなくてはならないので、
心は猫側についてあげたい気持ちでいっぱいでも、
それを公言しない私は、ずるい人なんだと思う。

 

 

The End.