2015年春の話です。

 

 

保護した猫の避妊手術の為に病院を訪れた際に、
診察室の床に置かれた箱を指さして、先生が言いました。

 

ねえ、この子猫、連れて帰ってくれる?

 

 

 

 

 

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出会ってから半年間見守って来た猫、菜花ちゃん。
家に連れて帰ることが出来なかった猫、菜花ちゃん。
私は、その菜花ちゃんをやっと保護して病院に連れて来たのです。

 

 

 

時々、我が家の路地にやって来る猫のTNRをしたり、
自力や、肉球家族さんの協力のもと、
数匹の子猫を保護して里親探しをしたりしていましたが、
その頃の私は、自分は猫ボランティアだという意識もありませんでした。

手術済のメス猫2匹を地域猫として我が家の庭で世話をしていましたが、
それは室内で猫を飼うことが出来ない状況だったからです。

 

里親探しをするから、
菜花ちゃんを保護して家に入れてあげたい。

半年以上かかって、やっと家人の同意を得て、
遂に保護できた菜花ちゃんを病院に連れて来たところに、
「他の猫も連れて帰って」って。

 

なにそれ。

 

 

考えてみれば、どうもおかしいと思ったんです。

 

野良猫の避妊手術をお願いする時には、
午前中に病院に預けます。
その日の午後、先生は手術を行います。
先生がひとりでやっているような小さい病院ですから、
入院なんて出来ません。
術後の猫の引き取りは、同じ日の夕方以降です。

 

私が菜花ちゃんを保護したのは夕方でした。
翌日の午前中に手術に連れて行こうと思い、
先生に確認の電話をしたのです。
すると、先生は言いました。

「今から連れて来て。すぐ来れる?
遅くなってもいいから来てよ。」

 

ヒマなのか?

 

そして、病院に到着するや否や、先生が言ったのが、
「この子猫たち、連れて帰ってくれる?」でした。

 

先生、謀ったな。

 

次にやって来るボランティアに引き取ってもらおうと、
先生は考えていたのでしょう。
で、その日はなかなかボランティアさんが来院しなかった。
そんな時、私が電話をしたものだから、
これはチャンスと、先生は思ったんだな。

繰り返しになりますが、私は自分をボランティアだとは
思っていませんでした。
ただ、時々、捕獲した猫の手術や、
知人が保護した子猫の診察に病院を訪れていましたので、
先生の中では、「私=猫の保護ボランティア」
という認識だったわけです。

 

 

 

さて、困りました。
私には今日保護した菜花ちゃんがいます。
これ以上、室内に猫を入れるわけにはいきません。

 

でも・・・。

 

箱の中には生まれてまだ1週間以内の赤ちゃん猫が3匹。
衰弱しているようで、さらに、1匹は首に怪我をしています。

 

先生、ごめんなさい。
我が家ではもう無理なんです。

 

すると、先生は1匹の子猫の首根っこを掴んで持ち上げて
拗ねたように言いました。

 

じゃあ、いいよ? 
僕も無理だから。
ここに置いておかれても困るから、
保健所に連れてっちゃう。
その前に、死んじゃうかも。
弱ってるから。

 

 

もう~!

 

なかなかの確信犯だわ、先生は。

 

 

その頃、私が知っていたボランティアさんで
連絡先がわかるのは、肉球家族さんか、ふくねこやさんくらい。
乳飲み子を預かることが出来る方をご存じかもしれない。

 

「これから聞いてみますから、先生、
しばらく子猫達の面倒をみていて下さい。
いったん帰宅して、また戻ってきます。」

 

 

私はすぐに肉球家族さんに電話をして、
先生が私に猫を押し付けようとしてるの~と、
事の経緯を説明しました。

 

少し待って肉球家族さんから折り返し連絡がありました。

 

「私が猫を譲渡した隣市にお住まいのNさんというご一家が、
しばらくの間、乳飲み子を預かってくれるって。」

 

帰宅すると、菜花ちゃんの為のケージを用意し、
子猫を入れるキャリーその他を準備して、
私は再度、病院に戻りました。

 

先生は、のん気に片付けをしながら、言いました。

この子達、いい子だよ~、
僕のおっぱい飲んでたよ~。

 

やめて。

 

 

 

手術の終わった菜花ちゃんと子猫を引き取り、
すぐにその足で隣市のNさん宅に向かいました。

 


ちょっと不安そうな表情の菜花ちゃん。

 


3匹の子猫たち。

 

 

Nさんが、離乳をめどに1ヵ月程度、
子猫のお世話をして下さることになりました。

 

グレーの男の子がグレル
いちばん小さい三毛の女の子がミケル。
ほわほわのポイントの子がコットン。

 

優しそうなNさんの手に子猫を託し、
私はホッとして、帰宅しました。

 

 

菜花ちゃんには、慌てて手縫いで作った術後服を着せ、
ご飯を与え、ブラッシングをしました。
賢い菜花ちゃんは、新しい環境を受け入れて、
おとなしく、横になっています。

 

 

 

やっと菜花ちゃんを室内に入れてあげることが出来た。
私も自然と顔がほころび、しまいには泣いてしまい、
夜中になっても、菜花ちゃんに寄り添っていました。

 

 

 

Nさんが1ヵ月お世話をして下さった後、
あの子達はどうなるのか?
先生から子猫を託されたのは、私だ。
次の預かり手を云々ではなく、
私が引き継がなくてはならないだろう。

 

気が重くなりましたが、
これは怒られても、呆れられても、
家人には話しておかなくてはなりません。

 

「M先生から預かったの?でも、まだ先の話なんでしょ?
その前に、菜花ちゃんの里親探しをしてあげないとね。」

 

予想に反して、家人は子猫の受け入れに肯定的でした。

 

 

 

 

Nさんが一生懸命お世話をして下さり、
子猫たちは元気に成長していきます。

 


保護から7日め。

 


保護から11日目(左)と、16日目(右)。
とてもしっかりとしてきました。

 


保護から24日め。

 

 

 

 

菜花ちゃんは、大人の猫ですから、
ゆっくりご縁を待とうと思っていましたが、
保護してからちょうど1ヵ月後にご縁が繋がり、
都内在住の方に貰われていきました。

しかし、ずっと見守ってきた菜花ちゃんがいなくなった寂しさと、
菜花ちゃんに一生のお家を見つけてあげることが出来た達成感に
浸っている暇は、今はありません。
急いで、子猫の受け入れ準備をしなくては。

 

2階の和室にシートを敷き、ケージを組み立て、
ハウス、ベッド、トイレ、おもちゃを置いて、
子猫たちの保護部屋を作りました。

 

 

 

Nさん宅から引き取ってきた子猫は、
あの日、先生のところで見た、
弱々しい子猫とは思えないほど、
みんなしっかりと成長しています。

2階の保護部屋に入れると、警戒することもなく、
すぐに走り回って遊びだしました。
よく食べて、よく寝て、手のかからない子達です。
Nさんご一家のおかげです。

 


空き箱をつないで作ったトンネルが気に入ったようです。

 


すぐに電池切れる。

 


子猫達に会いに遊びに来てくれたMさんの膝の上。

 

 

 

これから、頑張って里親探しをしてあげなくては、
と思っていたのですが、ご縁はすぐそこにありました。

 


スタイルの良い、サバトラのグレル(男の子)

 


一番小さかった子、パステル三毛のミケル。

 


柔らかい毛並み、ポイントのコットン。

 

 

 

子猫達がNさん宅から我が家に移動してきて数日後、
先生から電話がかかってきました。

 

「あの時の子猫さ、Hさん(私)宅にいるでしょ?
1匹貰いたいという人がいるんだけど。」

 

その里親希望者さまというのは、
子猫達を見つけて病院に連れて行き、
先生に託した男性の方のごきょうだいでした。

 

男性の方が、病院近くで子猫は3匹を見つけ、
先生に届けたわけですが、実は子猫はもう1匹いたのです。

その1匹を保護して飼っているのが、
子猫発見者の男性のきょうだい、Kさんご一家でした。

Kさんご一家も、病院のすぐそばに住んでいます。
保護した1匹の子猫の診察に、先生の病院を訪れ、
話をしているうちに、他のきょうだい猫3匹も保護され、
ボランティアさんのところにいると知ったのです。

 

 

Kさんご夫婦はすぐに、我が家にいらして下さいました。
保護して飼っているグレー系のポイント猫、
おもちくんを一緒に連れて。

 


1匹だけ、先に保護されていたきょうだいのおもちくん。

 

 

保護部屋で3匹とおもちくんを対面させましたが、
まだ生後2ヶ月の子猫ですから、威嚇するわけでもなく、
すぐに打ち解けて遊んでいます。
1ヵ月近く離れ離れになっていましたから、
家族だとか、きょうだいだとかいう自覚はもうないでしょう。
同じ年ごろの新しい仲間とでも思っているようです。

 

 

そのおもちくんと色違いのようなポイント柄のコットンを
Kさんは選んで下さり、1週間後にお届けに伺いました。
新しい名前は、わたあめちゃんになりました。

 

 

 

 

おもちくんとわたあめちゃん。

 

 

白いほわほわの子だったわたあめちゃん。
顔と足にはうっすらと縞々模様が見えていましたので、
成長するにつれ、もう少し模様がはっきりとして、
柄が出てくるだろうとは思っていましたが、
1年後の姿を見てびっくりです。

 

 


オールモスト・ベツネコ。

 

 

 

 

 

残ったグレルとミケル。
こちらは地元の方とご縁がありました。

 

 

菜花ちゃんを保護してから、数日後、
駅近くのある場所で、迷い猫の張り紙を見ました。
そのサビっぽい猫、ポーラちゃんが、
菜花ちゃんに少し似ているような気がしましたので、
早速、飼い主のOさんに連絡をしました。

 

 


Oさんが作成して貼り出していたポーラちゃん捜索ポスター。

 

 

 

Oさんは我が家で菜花ちゃんと対面しましたが、
菜花ちゃんは、ポーラちゃんではありませんでした。

 

病院に連れて行く途中、
自転車に積んだキャリーが落ちてしまい、
その衝撃で開いたキャリーの扉から飛び出して、
ポーラちゃんはいなくなってしまった。
3年も前のことだそうです。

届け出もしてずっと探しているが、見つからない。
どなたかが保護して飼って下さっているのならばいいけれど、
もう亡くなってしまっているかもしれない。

ポーラちゃんが戻ってくることを願いつつ、
新しく猫を飼おうかと、ご家族と話していたそうです。

そんな時に、我が家に来てみたら、
里親募集中の子猫2匹がいた。
これはもうぜひ、となったのです。

 

 


Oさんとお嬢さんのRちゃん。

 


Rちゃんお手製の2階建て猫ハウス。

 


グレルはロア、ミケルはプティという名前になりました。

 

 

 

 

 

 

4匹の子猫達は、きょうだいで2匹づつに分かれ、
みな終の棲家に落ち着きました。
私も肩の荷が下りた気分でした。

 

その後、子猫たちの保護部屋にしていた和室を片付け、
それ以来、その部屋に猫を入れてはいけない決まりとなりました。

家人は、子猫たちの写真を撮ったり、遊びの相手をして、
子育てに協力してくれました。
これはいつもお世話になっている先生に頼まれたから、
仕方なく、という思いだったようです。
菜花ちゃんと子猫達が卒業し、家の中に猫=ゼロになると、
やむを得ず自分で保護した場合を除き、
今後、他人から猫を預かって我が家に入れるのは絶対にダメ、
と釘をさされてしまいました。

(この直後から、そうも言っていられない状況が続くのですが・・・)

 

 

 

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当時は、まだねこ藩などというものはなく、
私は、個人ボランティアとして猫の譲渡をしましたが、
譲渡合意書は作成しています。
そして、里親さまに署名・捺印もいただいています。

 

約束事の中に、「脱走等のトラブルに注意」があります。
その点に関して、Oさんには、いまだに不安を感じています。

 

Oさんは、自転車で10分くらいのところにお住まい。
生活圏が重なっていますので、
道やお店でバッタリお会いすることがあります。

 

お会いした時に、ロア君が、何度か、
庭に出てしまったと聞きましたので、
網戸ストッパーだけでなく、
窓や玄関にも脱走防止柵をつけて下さい。
とお願いはしてありました。

Oさん宅にお届け物をした際、
「この子は怖がりで外にでようともしないのに。」
と、プティちゃんを抱っこして外に出て来たこともあります。

突然大きな音がしたら、ビックリして、
腕からするりと逃げてしまうこともあるから、
そんな風に抱っこして外に出さないで、
と注意をしましたが、Oさん曰く、

「この子は平気。」

 

今年の3月に、OさんからLINEにSOSが来ました。

「捕獲器を貸して下さい。ロアが外に出てしまって、
呼んでも帰ってこない。」

翌日、ロアくんは家の敷地内で捕獲器に入りましたので
事なきを得ました。

 

 

そして、また先日、
「捕獲器を貸して下さい」の連絡が来ました。
3日前に脱走したそうです。

Oさんは、5年経った今でも、
脱走防止柵を設置していませんでした。

設置例の画像を送り、
「今度こそ必ず設置して下さい。
外に出ることが習慣となってしまい、
次は本当に帰ってこなくなるかもしれませんよ。」
と、少し厳しい口調で伝えました。

ロア君はOさん宅のすぐ外にいますが、
呼んでも家に入ろうとしないのです。
近づくと、逃げます。
3ヵ月前に捕獲器での捕獲経験がありますから、
警戒して捕獲器には入らないのです。

今日の時点で、ロア君はまだ捕獲器に入っていません。

Kさんのごきょうだい→先生→Nさんご一家→私、
と繋いで、幸せな未来へ送り出したロアくんです。

 

「大切にしますから。」

 

とおっしゃってロア君の里親になったOさん。
楽天的な方なのかもしれませんが、
取り返しのつかない結果になる前に、
飼育環境をもう一度見直して、
しっかりと対応していただきたいです。

 

 

To be continued ・・・・・