前回のお話。

2022年4月26日のブログ
ボク、死んでますので:①怪我を負った子猫
https://nekohan.jp/?p=14133

 

TNさんが保護して下さった大福。
TNさん宅で過ごしていた頃は、
ごく普通に人慣れした子猫ということでした。

私と仲間のANさんが、TNさんの職場で、
初めて大福と会った時も同じでしたが、
預かりの上村さん宅に移動すると、
大福の様子が変わっていきました。

 


涙の分泌量が多いことが気になり、
上村さんは近くの病院で目薬を買ってきて下さいました。

 

 

 

これまでは、何でもされ放題だった大福に
妙な緊張感が見られるようになったのです。

ケージ内では、常にかったるそうにして、
ベッドの下や脇に不自然な恰好で寝ています。
普通に寝ていることもありますが、
地面と一体化するように出来るだけフラットになったり、
端っこにはまるように紐のように長細く伸びたりして、
なるべく目立たないような姿勢をとっています。

ケージから出すと、部屋の隅っこで固まってじっとする。
抜き足差し足忍び足のように、動くのも遅い。

 


移動した日はトイレ内で姿勢を低く・・・
(これはよくある情景ですよね。)

 

 


ベッドと柵の間の隙間にピタリ。

 

 


出来るだけ動かないようにしているのか、
寝たままの姿勢でご飯を食べるお行儀の悪さ (-_-;)。

 

 

 

移動して数日、
上村さんが、妙なことを言い出しました。

 

 

大ちゃんが、
死んだふりをするんです。

 

 

上村さんや、お嬢さんが大ちゃんを抱っこすると、
まるで投げやりになって諦めるかのように、
途端にくたーっと力を抜き、ぬいぐるみのように、
ぐったり、ふにゃり、となってしまうのだそうです。

 

 

 

 

普通、怖かったり、警戒しているのなら
緊張して身を硬くするものだと思うんですが、
抱っこされても無抵抗。全く動こうともしない。
なんか、違和感を覚えませんか?
と、上村さん。

 

 

うん、確かに。

 

 

上村さんを訪れた際に、大福をケージから出してみました。
大福はビクついて、そろりそろりと逃げ、
ケージと窓の間の隙間に入り込んで身を隠しました。
と言っても、こちらにお尻を向けたままじっとしています。
手を伸ばしてお尻をちょこんと触ってみると、
明後日の方向を見ながら、口からは無音のシャー。
そんなんじゃ、威嚇の意味も効果もありません。

手を伸ばして大福を掴んでみました。
すると、大福はぐにゃりと平たくうつ伏せになり、
動かなくなってしまいました。
そして、ぎゅっと目を閉じたのです。

 

 

 

ボク、死にました。

というメッセージを発しているようにに見えました。

 

 

無抵抗、無気力、無反応。
虚脱。諦念。絶望感。

何らかの脳障害ではないかと心配になり、
頻尿の件で通院した際に、獣医さんに相談しました。

障害だったり何らかの病気の症状ということではなく、
これまでの大福の経験から、形成されてきた性格なんじゃないか?
とのことでした。

 

 

しばらくそんな様子が続いたかと思うと、今頃になって、
「覚醒して我に返りました!」とでもいうように、
徐々に野良気質が垣間見えてくるようになりました。

 

上村見ていない時は遊んでいる音がする。
上村さんが覗き込むとピタリと動きをとめて固まる。
だるまさんが転んだ状態。

上村さんが抱っこしてリビングに連れてくると、
大福は困って、こそこそのろのろと逃げ出し、
自分のねぐらである、隣の部屋のケージに戻る。

 

 


動きが出て来たのはいいことですよね、
と上村さん。

 

 

 

大福がケージでひとりで遊んでいる音を聞きつけ、
上村さんがじゃらしで誘って、
遊びに付き合ってあげようとすると、
威嚇したり、唸り出したりして興奮状態。

 

大ちゃん、ここのところ、
なんか怖いんですよ~。

こんな調子で大丈夫なんでしょうか。

上村さんは、若干の不安を感じていました。

 


威嚇のシャー(迫力なし)が頻繁になりました。

 

 

 

もしかしたら、大福は、人にお世話をしてもらっていた猫ではなく、
餌をもらっていただけの、生粋の野良猫の子なのかもしれません。

 

 

 

保護当初に比べて、扱いづらくなってくる大福。
これから大福がどのような猫になっていくのか。
こんな大福を迎えて下さる里親さまはいるのだろうか。

 

 

 

 

いたのです。

 

 

 

数か月前に、飼い猫のロクちゃんを亡くされた、
県内のご夫婦からお問合せをいただきました。
大福と同じ黒猫。たったの3才。
突然の病だったそうです。

 

お申込みをいただいた際に、

●在宅勤務と出社の日があり、ずっと大福ちゃんの側について
様子を見てあげることは出来ない。
●玄関の構造上、脱走防止柵の設置が難しい。

その状況が保護主さんのご希望に沿わないものであれば辞退いたしますが、
もしそれでも構わないということでしたら、ぜひ応募させてください。

大ちゃんがこの先幸せになることが絶対条件ですから、
他に条件の良い方がいらっしゃるなら、そちらを優先なさって下さい。

とお言葉をいただきました。

 

 

この時点ではメールのやり取りのみ。
里親候補者のWさんにはまだお会いしていませんでしたが、
この率直で誠実で丁寧な文章から、
Wさんのお人柄が見えてくるようでした。

お見合いの場で、ご夫妻に色々と話を伺いました。
お子様のいないご夫婦。飼う猫は1匹だけ。

Wさんご夫妻のお宅で、自由にのびのびと
甘えて甘えて甘えまくって、幸せに過ごす大福の姿が、
見えてくるようでした。

大福の人慣れ度が退化したこともありましたので、
こちらからは無理におすすめできないと考えていましたが、
Wさんご夫妻は、この不思議くんと一緒に暮らすことを
望んで下さったのです。

 

 


トライアル中の大福の行動はまさに予想通り。

 

 

 

この、よく訳のわからない(笑)大福について、
不安に感じることもあったはずですが、
トライアル期間も焦らずに温かい目で、
大福を見守って下さいました。

また正式な譲渡となった後でも、
大福の健康状態に常に注意して、知らせて下さいました。
ビクつきや軟便の件で、何度も通院したり、
フードをあれこれと変えて様子を見たり・・・、

大福を大切に育てて下さっているんだなと、
感慨深いものがありました。

 

 

 

Wさん宅に移動して間もない頃、
寝たふり、死んだふりが再開されたこともあったようですが、
譲渡から7ヵ月過ぎた今では、したたかに(笑)甘えながら、
Wさんご夫妻と幸せな毎日を過ごしています。

 

出来るだけボクに似ている子を遣わしたよ。
ボクの方がもっと優等生だったけどね。

 

なんて、ロクちゃん、
言っているんじゃないかしら(笑)。

 

 

 

 

 

 

 

大福のとった行動について、考えてみました。

●確保されると、死んだふりをする。
●視線を逸らすか目を閉じる。

 

 

野生には、身を守るために死んだふりをして生き延びる努力をする動物がいます。

 

 

疑死。

 

 

【疑死】

外敵に襲われた動物が行う行動ないし反応の一つの類型で、
動かなくなってしまうこと。俗にいう「死んだふり」。

 

外敵・捕食者に捉えられた時に起こるもので、
身体の損傷の防止と捕食者からの逃避が考えられる。
捕食者から逃げられそうにない状況下で無理に暴れると、
疲労するだけでなく身体を損傷する危険があるが、
捕食者は被食者が急に動かなくなると力を緩める傾向がある。
このような時に捕食者から逃避できる可能性が生まれ、
この機会を活かすために身体の損傷を防ぐ必要がある。

 

 

これに近いものがあるのではないか。

 

 

襲われて捕まえられ、生命の危険を感じるピンチに陥った時、
そこから逃れようと激しく抵抗して敵とやり合えば、
相手同様、自らも傷を負う可能性があります。

だったら、とりあえず静かにじっとして、
相手が油断するのを期待しつつ、

あるかないかわからないけれども、
逃避できそうなチャンスを待つ。

 

そうでなければ、

「あなたと対等に戦う気はありません。
あなたに危害を加えたりしません。
じっと静かにしていますので、見逃してください。」

と相手に思わせたいのかもしれません。

 

 

もうひとつ、興味深い点。

大福がこちらに目を合わせないように、
視線を大きくずらすか、目を閉じてしまうことです。

 

人間のコミュニケーションの大部分を占めるのは言葉のやり取りですが、
猫はお互いに言葉を交わして意思疎通をはかることはできません。
行動で意思表示をし、相手に何を求めているのかを知らせます。

 

野良猫を保護して人慣らしする時に、猫の目を見てはいけないと言います。
そっと近づき視線を外すか、一瞬目を合わせてからすぐにまばたきをします。
「私はあなたの敵ではないよ。私はあなたに危害を加えないよ。」
ということをわかってもらう為です。

 

目を合わせて凝視する=睨み合う、ということは、
喧嘩を売ることになり、緊張感が生まれます。
猫同士の喧嘩の場合、やる気満々の猫同士だと、
長い間お互いの目を睨んだまま威嚇の唸りを発しています。

一方、「これはダメだ、勝ち目がない、降参」と判断した場合や、
「すみません、自分はあなたと喧嘩する気などありません」という場合、
必ず猫は視線を外します。
その場を何事もなくやり過ごそうとしているのです。

こちらにお尻を向ける行為も同じです。
背後を敵に見せるということは、
攻撃の隙を与えることになりますから、
緊張状態・戦闘モードの猫は、
決して後ろ姿を敵に向けません。

 

 

大福はなぜ、そんな行動を?

 

 

調べた限りでは、大福の保護場所近くに
他の子猫は見当たりませんでした。
少し前にお腹の大きな猫が近辺をうろついていたとか、
子育て中の、あるいは子猫を連れた母猫を見かけた、
といったような情報もありませんし、
たくさんの野良猫がいるとは考えにくい一画でした。

本当に小さな赤ちゃん猫の時に拾われて、
一時、人に飼われていたものの、
何らかの事情で外の生活を送ることになってしまったか、
母猫やきょうだい達とはぐれて彷徨ううちに、
だいぶ離れた場所まで来てしまったか。

 

ハクビシンに襲われ怪我をして、
ショックで動けなくなったこともあり、
保護してしばらくは無抵抗のおとなしい子だった。

元気になってくると、本来の大福の姿なのか、
さほど人慣れしていない子であることがわかった。

 

その経緯を考えると、大福は人に飼われていた子ではなく、
外で生まれ育った子である可能性の方が高いのではないかと思います。

 

 

 

通常、生後1ヶ月前後に子猫は離乳し、
生後2ヶ月を過ぎれば、自立します。
体重から逆算して、生まれた日を推測してみると、
大福はTNさんが保護した時点で生後83-85日目。
生後3ヶ月に満たない月齢です。

 

自立してから保護されるまでの1ヶ月近くの間、
大福はどうやって生きてきたのでしょう。

 

痩せてもいないし、健康状態も悪くはありませんでしたから、
どなたかが与える餌を食べて生きてきたことは確かだと思います。

 

ちょろちょろと隠れたり出てきたりしながら、
ビクビクして毎日を過ごしていたのかもしれません。

 

まだ子猫であっても、猫は獣です。
まだ子猫であっても、大福はオス猫です。
生き延びるために必死だったはずです。

 

近所の強いオス猫に出くわしたり、
餌場で他の猫と遭遇することもあったでしょう。

そんな環境で、目をつけられて喧嘩にならないように、
他の猫に脅威と思われないようにするために、
大福が身につけた処世術が、
寝たふり・死んだふりだったのかもしれません。

 

ボクは喧嘩しません。
ボクはあなたに手を出しません。
見逃して下さい。

 

そうやって1日 1 日を生き延びていた子猫が
ある日、ハクビシンに襲われて怪我を負い、
人の手によって保護された。

 

ホッと安心したのは人間の方だけで、
怪我が治り覚醒した大福にとっては、
気をつけなくてはならない相手が
猫から人間に変わっただけ。
そして、その状況で、これまでと同じように、
また生き延びていかなければならない

 

ボクは喧嘩しません。
あなたに手をだしません。
見逃してください。

 

 

まだ子猫なのに、なんと切ない生き方。
胸が詰まりそう。

 

人間と猫は時間の感覚が違います。
人間にとっての1日は、猫にとっての3日間。

私達人間からすれば、ほんの3-4週間のことでも、
大福にとっては長い長いサバイバルの時間でした。

 

 

 

でもそれはもう終わったこと。

 

大福にはもうわかっているでしょう。

そんな処世術なんかもう必要ないことを。
身を守るためにこそこそと生きなくてもいいことを。

たっぷりの愛情を注がれて、恐れるものは何もない。
大福は、これから長い猫生を生きていくのです。
Wさんご夫妻と一緒に。

 

 

 

 

 

 

 

The End.