さくらちゃんが天に還っていきました。
さくらちゃんは、ジロ・チカの里親さん・YAさんが、
昨年4月にご自宅近所で保護した猫です。
末期に近い腎不全の状態で、疲れて空腹で、
行き倒れそうになっていたところを、
偶然見つけたYAさんは、そのまま放っておくことが出来ず、
看取るつもりでご自宅に連れ帰ったのです。
その頃、ご主人が海外に単身赴任中で、
YAさんは飼い猫のジロ・チカと、ひとりと2匹の暮らし。
平日はフルタイムで働いているYAさんですが、
さくらちゃんを頻繁に病院に連れて行き、
またご自宅でも補液を続けました。
そんなYAさんの頑張りに応えるように、
さくらちゃんも頑張ったのです。
保護した時のさくらちゃんの状態はかなり悪く、
もう長く生きられないだろうということでしたが、
あれから1年と3ヶ月以上も、さくらちゃんは生き延びました。
そろそろさくらちゃんにお迎えが来そうだと知った翌日、
どうしても最後にさくらちゃんの姿を目に焼き付けておきたくて、
YAさん宅を訪問しました。
既に寝たきりになり、トイレも垂れ流しになっていましたが、
一生懸命目を開いてYAさんの呼びかけに鳴いて応え、
私、もうちょっと頑張れるよ、とでも言うように、
さくらちゃんは手足をパタパタと動かしていました。
その翌日の、7月17日朝、
YAさんと、2月に単身赴任が終わり帰国していたご主人に見守られながら、
さくらちゃんは蝋燭の火が細って消えていくように、息を引き取りました。
お二人は都内の動物霊園でさくらちゃんの火葬を行いました。
ジロ・チカより3年遅れてYAさんご夫婦の飼い猫になったさくらちゃんは、
ジロ・チカより先にYAさんご夫婦の飼い猫としてその生を終えたのです。
10才をとうに超えている年齢でした。
シニア期に入り、末期の腎不全となり、
命の期限が迫っているさくらちゃんを
外に置き去りにして捨てた飼い主がいました。
でも、もうそんなことどうでもいいんです。
昔の飼い主のことは、さくらちゃん、YAさん、
そして経緯を知る全ての人間の頭の中から抹消します。
そんな人間はこの世にいなかったことにするんです。
存在すら認めたくない。
さくらちゃんは、年を取り腎不全を患った状態で、
昨年4月にこの世に生まれてきた女の子なのです。
そして、1年3ヶ月、愛されて生きた。
YAさんとジロ・チカと一緒に。
それがさくらちゃんの全生涯。
その短い一生を、さくらちゃんは精一杯生きました。
YAさんがこの1年で流したたくさんの涙は、
エメラルド色の湖になりました。
その湖の上にかかった美しい虹色の橋を、
さくらちゃんは歩いていきます。
「ありがとう」
何度もYAさんとご主人の方を振り返りながら。
柔らかい光の粒がさくらちゃんに降り注ぎ、
湖面へと落ちていきます。
橋の向こうに知っている仲間の姿が見えたのかな。
さくらちゃんが軽快に走り出します。
その姿がだんだん小さくなっていくと同時に、
湖の穏やかな水面は光に満ちて輝き始めました。
私にはそんな光景が見えてくるのです。