2019年3月18日のブログ
産んでもらいます!(1)繁殖をストップ

2018年9月に届いたねこ藩へのメールは、
○野良のメス猫に出産してもらうことについて。
○生まれた子猫達の里親探しをすることについて。
という相談内容でした。

 

 

赤ちゃん猫でも、子猫でも、成猫でも、
巷には里親探しをしている猫が溢れています。
猫を飼える人間(世帯)の数よりも、
家族探しをしている猫の総数が多い現状。

今ならまだ十分に止められるのに、
なぜ、わざわざ子猫を産ませるのか。
家族探しをする猫を増やすのか。

ねこ藩は、TNRおよび不妊手術の実施を
活動主旨として掲げているのではなかったか?

複雑な思いが頭の中を駆け巡ります。

 

私は相談メールの送信者である、
市内にお住まいのANさんとメールのやり取りをして、
もう少し話を詳しく伺ってみることにしました。

 

8月上旬、ANさんご一家の庭に
お腹をすかせてニャーニャーと鳴く猫が現れました。
白キジで若そうなその猫は首輪をつけていました。
とても人慣れしているその可愛い猫に、
ANさんはご飯をあげるようになりました。
しばらく経ったある日、猫の首輪が外れていました。
ご飯を食べに来るANさん宅にやって来る以外は、
いったいどこで寝泊まりしているのか不明です。

初めに首輪をしていたこともあり、
ANさんは猫の画像を手に、近所を一軒ずつ回って、
猫の飼い主がいないか、また、
猫の飼い主に心当たりがないかどうか訪ねて歩きました。
該当するお宅はありませんでした。
猫はいつもお腹をすかせているようなので、
もしも、この猫に飼い主がいないのであれば、
自分が保護した方がいいのかなとANさんは想い、
動物病院に連れて行き診察を受けると、
猫は妊娠2週間の身重でした。
万が一、飼い主がいる猫だったら、勝手に堕胎は出来ない。
自分の家で出産するのであれば、その子達の
里親探しをしてあげなくてはならないだろう、
悩んでいた時に、ねこ藩のサイトに辿りついた

 

ANさんがメールで詳しく説明して下さいました。
絶対にこうだと決めつけることは出来ませんが、
この猫にはどういう背景があるのか、想像してみました。

《推測材料》
○人に慣れている→ご飯をもらっていた野良か、飼われていた猫
○首輪をしていた→飼われていた猫
○首輪がなくなっていた→人が外したか、自然に取れた。
○毎日現れる→この地域から出ていくことがない
○「迷い猫探し」の貼り紙がない→近所に探している飼い主がいない。
○常にお腹をすかせている→現在ご飯をあげる人がいない

《考えられること》
○この地域に住んでいた人間が引っ越しで置いていった。
○この地域に住んでいる人間が飼い猫を外に出して(遺棄するつもりで)
知らぬ顔をしている
○この地域に住んでいる人間が亡くなって、残った猫が外に出された。
○べつの地域からこの地域に遺棄されたが、ご飯をもらえるので居ついた。

 

つまり、この猫には今、飼い主がいないということでしょう。

人慣れしていて可愛い

 

以前、ねこ藩HPで紹介した外猫ハウスを参考にして、
ANさんは猫の為のハウスを段ボールで作り、
購入した新品の猫用トイレと並べて、玄関横に設置しました。
ANさんのお母様が、「はい、どうぞ」と誘導すると、
猫はハウスに入ったそうです。
ANさんは、そのハウスの中でご飯をあげることにしました。
猫が出産するのならば、自宅で出産してもらいたい、
その為には自宅に引きつけておく必要があります。

 

数度に及ぶメールでのやり取りをするうちに、
私は、ANさん一家の優しいお気持ちに触れ、
最後まできちんとお手伝いをしようと決めました。
最初に届いた相談メールの中に書かれていた
この言葉がずっと心の中に残っていたんです。

「猫の面倒をみるのは初めてで、よくわからず・・・」

 

猫が好きでも、自分の飼い猫以外の猫に全く興味がない方もいます。
猫が好きでも、野良猫問題に目を背ける猫飼いの方もいます。
野良猫の処遇が心配でも、自分では動こうとしない猫飼いの方もいます。

「猫を飼っていても、飼い猫以外の猫はどうでもいい方はたくさんいます。」

ANさんご一家は、猫の保護活動をしているご一家でも何でもない。
猫を飼ったことがないご一家なんです。
しかも、お母様は猫に触れると強烈に痒くなる猫アレルギー。
それなのに、迷い込んで来た1匹の猫にご飯をあげるだけでなく、
飼い主を探して歩きまわり、病院に連れて行き、
家で準備をして出産を見守ると言い、里親探しをするつもりでいます。
普通なら、ボランティアに丸投げするところでしょう。
猫を飼ったこともないご一家が、そこまで手をつくして
この猫の生を尊重し、世話をしようとしているのに、
「産ませないで、堕胎して。」
なんて、私にはもう言えないし、言う気もない。

「頑張って無事に産んでもらいましょうね。」
心の底からそう思い、「よしっ!」とやる気が出ました。

 

HPに相談メールをいただいてから3週間後、
初めてANさん宅を訪ねて、玄関外のハウスとトイレを拝見し、
こちらがお手伝いできることをお話ししました。

ご飯をあげるだけでなく、トイレもきちんと準備

ANさんもお母様も誠実そうな、穏やかな雰囲気の方でした。
親子で優しく猫を見守って下さっている様子がよくわかりました。
ANさんはフットワークが大変軽い方で、
どこにでもサクサクと車で出かけて行かれる方ですので、
病院通いでも、里親会参加でも、ご自身の運転で移動できます。
こちらがお手伝い出来るのはネットでの里親探しくらい。

ANさんとお母様はこの猫=サラ(別名にゃんこ)を
家の中で飼ってあげたいと思っていますが、
お父様が「猫は家の中で飼うものではない」と反対。
正確に言えば、反対ではなく、「外で飼うならOK」だそうです。
つまり、出産して子猫達に里親が見つかれば、
残ったサラを、外猫として世話をする飼い方になるので、
室内に入れて飼って下さる方がいるのならば、
その方がサラの為にもいいと思うので、
サラの里親探しもしたい、ということでした。

 

 

その後、玄関外のハウスには他の猫が入っていたりして、
サラは中でご飯を食べる以外は、
なかなかハウス内に留まってはくれませんでした。
お母様が時々お隣の空き家の掃除をしているそうで、
そのお隣にもハウスを置いたらどうかという案も出ました。
とにかく、どこか知らない場所で産んで欲しくない。
何とか、ANさん宅か隣の空家で出産できるよう、
環境を作っておかなくては。
ANさんは、サラの出産に備えて、
発砲スチロールで新しいお産ハウスを作りました。

 

 

どこか見つけにくい場所に隠れてしまってはいないか。
知らない間に産んでしまって、飼育放棄していないだろうか。
サラの出産を皆で待ち望んで準備しているのだから、
ANさんご一家を信頼して、ANさん宅に留まってくれますように。
サラの出産はそろそろではないかと、気になる日々が続きます。

 

 

10月8日午前8時、ANさんからメールが届きました。

先程からサラが私の部屋の出産箱で出産中です。
なるべく見ないようにと思って、チラ見ですが
2-3匹は見えました。オッパイ飲んでいます!
出産に立ち会えて、本当に嬉しいです

 

ついに!

「母猫は神経質になっている場合が多いので、
しょっちゅう箱を覗き込んだりして、
あまり母猫を刺激をしないようにね。」

と伝えておきましたので、ANさんも控えめに観察中。

 

 

同日、午後3時過ぎに、またメールが届きました。

今の時点で4匹確認できています。
お腹に残ってないといいのですが。
出産後は疲れた様子でしたが、
2時間前にご飯もお水もいっぱい飲んだので、
元気回復しつつあるようです。
特に異変はなさそうで、良かったです。
警戒心は先程より強くなりました。
時々様子は見ますが、少し控えようと思います。

 

最後の子を産み落として2時間、
食事もして疲れからも回復しているとなると、
これからもう1匹、という可能性は低いでしょう。

お母様が、朝ご飯を食べに来たサラの様子がいつもと違うことに気付き、
バスタオルで包んで室内に入れたところ、
5分もしないうちに息が荒くなり、出産体制に入ったそうです。
お母様とANさんはこの日、予定をキャンセルしてサラの出産に付き添いました。

 

出産直後のサラ

 

 

猫を飼ったことのない、猫の生態をご存じないANさんご一家が、
1匹の捨て猫の心配をして、世話をして、出産を見守り、
4匹の小さな新しい命の誕生の瞬間に立ち会いました。

「なぜ産ませる?」
「なぜ堕胎しない?」
これまで、自分の思考がその方向にばかりいっていたことが
ものすごく恥ずかしく思えました。

 

 

2014年夏、我が家の庭に住み着いていた野良猫、
大きなお腹のくりこを捕獲し、堕胎をお願いしました。
出産まであと2-3日というところでした。
あの時はひとつのことをやり終えたという気持ちで
ホッとしました。

「出産に立ち会えて本当に嬉しいです。」
ANさんから早朝に届いたメールの最後の文です。

足元で寝転がっているくりこを見て、あの2014年夏を思い出しました。
うまく説明できませんが、なんだろう、滝のように涙が流れてきました。

 

 

To be continued ・・・