「あら?」

3月10日、LINEのグループト―クに突如現れた
「地域猫」というグループに招待されました。
メンバーはISさん、HKさん、ねこ藩・菅野さん、私。

ISさんとHKさんは同じ路地にお住まいのお隣さん同士。
ねこ藩では、2017年秋にこの路地の
母猫TNRと子猫の里親探しをお手伝いしました。

2018年1月18日のブログ:
「猫は嫌い:①ミケちゃん一家」
2018年2月23日のブログ
「猫は嫌い:②だからやる~完」

 

あれから1年半経過し、この連絡。
「これは、また新しい猫が来たな?」

 

伺ったお話をまとめます。

◆その地域にいる白い猫・しらすが、路地に来るようになり、
お腹が大きくなっている。
◆しらすは半年くらい前にも出産している。
◆しらすの子供は、生後6ヶ月くらいのちりめんだけで、
あとの子供は姿を見ない。
◆ちりめんも♀で、路地に頻繁に現れている。

つまり、母猫しらすの堕胎・避妊手術と
ちりめんの避妊手術を行いたいとのことですので、
数日後、現場に捕獲器をお届けしました。

 


当時、子猫達が逃げ込んだ場所。ドクダミが隠れ蓑。

ドクダミが群生していた庭はテラスになっていました。

 

4軒が立ち並び、手前の通りにまた2軒。静かな路地です。

 

 

捕獲器をお届した翌日の3月15日朝7時前に、
ISさんが母猫のしらすを捕獲。
その日のうちに堕胎・避妊手術を終え、戻ってきました。
摘出した卵巣には小さな腫瘍が出来ていました。
また、歯の状態も非常に悪かった為、抜歯をお願いしました。

しらすは、少し長めの療養が必要だということで、
知人のペットサロン経営者Kさんに預かりをお願いしました。

 


まっ白い猫ですが、少し薄汚れています。


Kさん宅の療養ケージの中。

 

 

しらすの子供、ちりめんは常に路地にいるわけではなく、
またISさんもお仕事の定休日と時間が限られている為、
ちりめんの捕獲は翌週に延期しました。

 


ISさん宅の庭によく来ています。


来れば、ご飯ももらえます。

 

 

母猫しらすは最低でも1週間療養させたかったのですが、
飲まず食わず、トイレもほとんどしない、動かない、の状態が続きました。
これはかなりのストレスではないかとの預かり・Kさんとのご判断で、
可哀想でしたが、術後5日目にやむなくリリースしました。

少しでも体を休めることが出来るようにと、
ISさん宅の裏庭にハウスを設置しておきましたが、
しらすはハウスに入ることもなく、消えてしまいました。

 

 

しらすの捕獲からちょうど1週間後の3月22日早朝、
ISさんが子猫のちりめんを誘いこんで捕獲。
避妊手術の為に、午前中、病院に届けました。

 


捕獲器の中で、あまり暴れることもありませんでした。

 

 

夕方、獣医さんから連絡がありました。
「この子、オスだよ。両皮下陰睾。」

 

なんと!

( ̄□ ̄;)!!!

 

タマタマがついていなかったので、
「これはメス!」と判断しての捕獲だったのですが、
ちりめんはタマ無しのオスだったのです。

 

正確にはタマ無しではなくて、停留睾丸
成長するに従い、降りてくるはずの睾丸が
体内に留まったまま、外に出ていない状態です。
生殖機能は無い場合も多く、そのままにしておくと、
腫瘍に転化する可能性も高いとのことです。

 


この位置にタマタマがあれば、オス、
なければメス、と判断します。

 

 

ちりめんの場合は内股の方に留まっており,
正確に場所を探って除去する為に切開した部分が、
ちょうど猫にとって舐めやすい部分になります。
傷は当然縫っていますが、舐め続けてしまうと心配です。

オスは通常、去勢手術の翌日にはリリースするのですが、
こういった事情もあり、ちりめんの療養は1週間にしました。


実は、オスだったちりめん。

 

 

療養中のちりめんは怖がってケージの前面には出てきませんが、
威嚇もありませんし、おとなしくしています。
そばには、母猫しらすの姿もありませんし、
知らないにおいのケージの中にひとり、不安でさびしいようです。


か細い声で鳴いています。

 

ISさんは普段、ご飯をあげたり、おもちゃを与えたりして
ちりめんを可愛がっていましたし、
路地にいるオス猫に追われたりして可哀想なので、
リリースせずに済めば・・・と思っていました。

 

リリースせずに里親探しとなると、
預かりKさん宅での1週間の療養後、
新たに預かって下さる方を探さなくてはなりません。
これが毎回、頭を悩ませることなんです。

現在では、ありがたいことに、色々な面で、
ねこ藩に協力して下さる方々も増えましたが、
猫を預かるとなると、これはもう決まった数名しかいなくて、
その方達はご自身でも猫を保護していらっしゃいます。

いざという時のNおじさまは、じゅんちゃんで手一杯。
路地にお住まいのどなたかが保護出来ないのであれば、
これはもう仕方がないんじゃないのかな・・・
と思った矢先、菅野さんがいいニュースを持ってきました。

 

 

以前、ボランティア・三木さんから
猫を貰い受ける予定でいたのに、
結局、三木さんがそれを忘れて
他の方に猫を譲ってしまった為、
すっぽかしをくらってしまったご一家がいた。
そのご一家にちりめんの画像を送ってみたら、
ぜひ会ってみたいと言ってる。

 

それからはあっという間に事が進みました。
そのご一家・Nさんのお話を聞いた翌日には、
隣市からNさん親子がお見合いに来て下さり、
ちりめんと触れ合って下さいました。

 


お見合いにいらして下さったNさん親子。
ケージに手を入れ、体を入れ、ガンガンいきます。

 

その2日後、ちりめんを再度病院に連れて行き、
傷のチェック、血液ウィルス検査、ワクチンを済ませ、
その足で、Nさん宅にちりめんをお届けしてきました。

 


傷の治りもいい感じです。

 

 


Nさん宅に到着。じっとして様子を伺う。

 

 

猫が大好きなNさんご一家には、先住猫さんが5匹います。
15-6才の高齢猫さん1匹、8才のシニア猫さん4匹、
4-5才の猫さん1匹と賑やかなご家庭です。


出てきてくれた先住猫さん達3匹。


物置きには、ペットフード、猫砂等、
猫用品の飼い置きがたくさんあります。

 

この猫はお母様、この猫は娘さんのNNさんと決まっているようで、
ちりめんはNNさんの高校生の息子・R君の飼い猫となりました。

 

お届けした翌日、R君から、自分の膝の上で甘えるちりめんの
画像が送られてきました。

 

 


これが、10日前にはビクビクしながら外で逃げ回っていた子です。

 

お届から2週間。
お貸ししていたキャリーやトイレを回収しに伺った時、
ちょうどNNさんの膝上でゴロゴロいっていたちりめんですが、
私の姿を見ると、テーブル下の隠れ家に籠ってしまいました。

ちりめんはじゃこ君という名前になりました。

 


他人には警戒・・・

 

 

しらすはリリースから長らく姿を見かけず、
皆で心配していましたが、
HKさん、ISさんが気付かなかっただけで、
路地の一番奥に住む年配ご夫婦のご主人の方が、
敷地内でしらすにご飯をあげて下さっていたとのことでした。
先日、私が久しぶりに路地に伺った時に、
ちょうとしらすが出てきました。

以前からつるんでいた茶トラのオスも一緒にいて、
避妊手術が終わった今でも、しらすの近くにいます。
しらすのことが気になるんでしょうか。
この茶トラのオスも、そのうち去勢してあげた方が
いいかもしれません。

 

また、HKさん達がお住まいの路地には、耳カットのない、
しらすにそっくりな白猫も時々やって来るのですが、
これはちりめんの前に、しらすが産んだ別の子猫のようです。
その白猫は、1本向こうの通りのお宅で、
外猫としてお世話をされているらしいのですが、
不妊手術が済んでいるのかどうか、確認する必要があります。
未不妊のままだと、今度はこの白猫が出産し、
HKさん達の路地に、またまた新しい猫が
流入してくる可能性があります。


しらすにそっくり。

 

この路地の住人で実際に猫を飼っているのは、
ISさんご一家だけですが、
猫嫌いのHKさんを始め、他の住人の方々も、
ISさんだけに金銭的負担を押しつけるのではなく、
路地でのTNRの際には、皆さんで少しづつ、
お金を出し合うという体制が出来ているようです。

ご近所に気兼ねしながら、時には内緒で、
お一人でTNRを進めている方も多いです。
しかし、野良猫というのは、誰の物でもない猫なのですから、
特定の住民ひとりが全て背負ってTNRを進めるのではなく、
近隣の住民達が出来る形で協力し合って行うことが理想的です。

猫の好き嫌いや、経済的な理由、価値観の違い、
生き物に対する考え・温度差等は人それぞれですから、
なかなか難しいことだとは思いますが。

 

 

 

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ちりめんを迎え入れて下さったNさんご一家について
少し書いておこうと思います。

 

Nさんご一家は猫を保護して室内に入れる際に
ケージというものを一切利用しません。

お見合いにいらした際、NNさんがその話をした時に、
ちりめんの療養預かりを引きうけて下さっていたKさんが、
「外から猫を保護していきなり部屋に離すのはダメですよ。
ノミダ二や、感染症の問題もありますから。」
とおっしゃいました。

Kさんは強く命令調でおっしゃったわけではありませんが、
NNさんはひどくショックを受けたそうです。

 

お見合いの2日後に私がちりめんをお届けした際、
私の顔を見るなり、NNさんはこの2日間の間、
溜め込んでいた想いを一気に吐き出しました。

Nさんご一家は昔から、ご自宅付近にいる野良猫を保護し、
必要な医療行為を済ませた上で、自分達で飼ってきたそうです。
それを知る地元の人間が、Nさん宅の前に、
怪我をした猫、病気の猫、子猫を置いていくこともありました。
Nさんご一家は、どんな猫も見捨てたりせずに、
飼い猫として家に入れ、看取ってきたのです。

外から猫を保護したら、まず決められたひと部屋に入れる。
その部屋が丸ごとケージの代わりになるわけです。
その部屋で世話をして慣らしながら、
廊下、隣の部屋、階下と、徐々に動き回れるスペースを増やす。
それがNさんご一家のやり方であり、
ケージに閉じ込めることなど考えたこともなかったと。

 

生まれた頃から家にはいつも猫がいて、
そのような環境で育った息子のR君は、
お見合いの後の帰り道、母親のNNさんに訊ねたそうです。

「なぜあの人達は、ちりめんをあんな小さいケージに
閉じ込めたままにしているの?あれは虐待にはならないの?」。

その時の事を思い出して、NNさんは泣きながら言いました。

「私は息子になんて説明したらいいのかもわからなかったし、
外からいきなり猫を室内に入れるあなたのやり方はダメ、と
息子の前で言われたことは、本当にショックだった。
人には色々なやり方があり、我が家のような保護の仕方もあります。
我が家ではそれが普通だったんです。
それを頭ごなしにダメと決めつけるのはやめてもらいたい。
現に、Kさんはちりめんをただケージに入れているだけて、
ちりめんに触ることも抱っこしてあげることもしていなかった。
慣れていない子にいきなりそんなことをしたら、
人間が怪我をするとか、おっしゃっていたけど、
そんなの当たり前です。わかっています。
でも、そうしてあげなれれば、傷もみてあげられないし、
どんな子なのかさえ、わからないままじゃないですか。」

年齢の割には、ちょっと感情的になりやすい方なのかな?
でも、NNさんの言うことにも一理あると思いました。

 

 

NNさんには医療費やフード代を少しでも安く・・・
という気持ちがこれっぽちもありません。
猫の為に必要なことであれば、値段なんて気にしない。
ケージなんかに入れなくても、ひと部屋丸ごと与えればいい。
今、救済した1匹の為に、出来ることを最大限やってあげる。
それが、保護するということ。

 

NNさんの話をひと通り聞いた上で、
NNさんに真っ向から反論する形にならないよう、
気をつけながら、私は答えました。

 

「世の中全てのボランティアと言われる人が、
Nさんご一家と同じように出来たらどんなにいいだろうと思う。
でも、皆がNさんのように大きな家に住んでいるわけではないので、
1匹に1部屋を与えてあげることが出来ない。
NNさんのように、その時、その時、1匹の猫に対して
最大限のことをしてあげることが出来たら、
それは本当にすばらしいことだし、猫も幸せ。
でも、なかなかそこまで出来ないのが現状。
ボランティアが対応しなくてはならない問題は
ひとつやふたつどころではないから。
何とかしてあげなくてはならない猫が1匹だけではないから。
自分の庭にいる猫だけではないから。
Nさんご一家が「狭く深く」の完璧な保護をする一方、
ボランティア達はどうしても「広く浅く」になってしまう。
自分達が選んだ猫だけに対応していればそれでいいという状況ではない、
全く関係のない他人達からも猫を押しつけられたり、
引き取ったりしなくてはならないことがとても多いから。」

NNさんが十分に納得して下さったかどうかはわかりませんが、
私がその場で考えて伝えることが出来たのはこの程度です。

 

ちりめんをお届けした日の帰り際、
家の状況が詳しく書かれたメモをいただきました。
「我が家の状況について知っていただきたくて。
お見合いの時に持参していたのですが、
何となく渡しそびれてしまいました。」と、
NNさんはおっしゃいました。

 

丁寧に、詳しく書かれたそのメモを見ながら思いました。
NNさんは、他人に誤解されたり、変な人と思われることが
恐らくよくあるのかもしれませんが、
実はとても純粋で真っ直ぐで、情が深い人なのではないかと。

 

猫の保護の話になると、「対人」という面で、
ちょっと気を遣わなくてはなりませんが、
猫以外の話=ごく普通の日常の話をしてみたら、
笑顔でとても気さくに応えて下さいました。
今後も、細く長くお付き合いが出来ればいいなと思っています。

常に猫の健康、脱走、フードに留意し、
きちんとした飼育をなさっている方々ですから、
Nさんご一家にちりめんを託したことは正解だと思っています。

 

 

ケージに入れる、入れない。
ウィルスキャリアを隔離する、隔離しない。
全ての保護猫をひと部屋に集める、分ける。
慣れてから室内に保護する、慣れなくてもそうする。
猫の保護に関しては、様々な方法があると思います。
でも共通しているのは、その先にある猫の未来。
猫に幸せになって欲しいという気持ちです。

 

The End.

 

 

 

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◆今回の件で発生した費用◆

しらす
医療費:10000円(堕胎・避妊手術、抜歯、抗生剤)
預かり代:1500円(5泊)
フード代:1000円(5日分)
ちりめん
医療費:14800円(停留睾丸摘出・去勢手術、抗生剤、駆虫、血液ウィルス検査、ワクチン、鎮静剤)
預かり代:2100円(7泊)
フード代:1400円(7日分)

合計30800円

◎ねこ藩負担額:7200円
◎飼い主さん負担額:5800円
◎依頼主負担額:17800円(路地の4-5軒)

 

 

 

 

The End.