今から1年前のことになります。
市内在住の上村さんから相談がありました。

 

上村さんは、幼猫・子猫の預かりに協力して下さるご一家ですが、
ご自身もまた、自宅周りに現れる野良猫のTNRを断続的に行って下さっています。

 

上村さん宅から道を挟んだ向かい側に、
Mさんという高齢女性・Mさんが住んでいます。

Mさんは、市内の離れた場所に家庭菜園用の畑を借りていて、
ほぼ毎日、畑作業に出かけているのですが、
その畑に最近現れるようになった人慣れしている猫の
不妊手術をしてあげたいということで、
猫飼いの上村さんに相談してきたのでした。

 

 

 

 

 

手術後は、Mさんと、畑作業にやって来る他の人間達で
ご飯をあげたりして、猫の世話をしていく。
つまり、地域猫としてお世話をして下さるということです。

 

それは非常に有難いことなのですが、
不妊手術をする前に、猫について調べる必要があります。

 

本当に野良猫=飼い主のいない猫なのか。
抱っこもできる程人慣れしている猫ということは、
もともと人に飼われていた猫で、
捨てられたか、置き去りにされたか。

そうであれば、それは許しがたいことですが、
所有権を放棄したということになりますから、
他人が不妊手術をする分には問題とはならないでしょう。

 

考えなくてはいけないのは、
その猫が飼い猫かもしれないということ。
近隣にお住まいの住民に飼われている出入り自由な猫で、
単に、畑がパトロールのルート上にある可能性もあります。

 

畑のある地区に詳しいボランティアのIさんが、
何か情報をお持ちでないかどうか訊ねてみました。
Iさんはその猫の存在を知りませんでした。

 

Iさんの提案通り、
「こちらの猫さんの飼い主さんを探しています。
ご存じの方は連絡をください。」
と書いた小さなメモを首輪につけてみましたが、
猫はMさんが畑に置いたハウスで過ごしていて、
あちこち歩き回ってはいないようです。

結局、メモに対する反応は見られず、
正体はわからないまま。

 

「この子はもう行くところがないような気がしますので、
こちらで去勢しようと思います。」
と、上村さんから連絡が来ました。

 

その2日後、上村さんは猫を病院に連れて行きましたが、
既に去勢済だったことがわかりました。

 


去勢済で耳カットがないということは、
やはり元飼い猫なんでしょうね。

 

 

 

麻酔をかけたこともありますし、
ワクチンも接種していますので、
1-2日、上村さん宅のケージで療養後、
もとの畑にリリース予定でしたが、
あまりにも人慣れしていることから、
上村さんはこの猫を保護することにしました。

 

名前はMさんの苗字からとって、モカ君となりました。

 

 

 

 

 

保護猫となったモカくんは、ケージから出てフリーになると、
ずっと前から上村さん宅に住んでいるように、落ち着いて寛いでいます。
性格も穏やかで、人に対して甘えん坊。シャンプーも出来ました。

 

 


庭にやって来る地域猫のはっちゃん
(不妊手術の記録125を参照)に

挨拶をしているようです。

 

 

 

赤ちゃん猫・子猫ならまだしも、大きなモカ君の出現は、
上村さん宅のむぎちゃんにとって相当な環境の変化です。
どっしりと構えてのんびりしているモカ君を尻目に
むぎちゃんはあたふたと慌てています。

しばらくは、むぎちゃん、我慢だね。

 

 

 

 

さて、最近、このブログで、しつこい程繰り返し書いている、
オスの成猫が貰われにくい件。

 

「里親探しのお手伝いOK」とは言ったものの、
モカ君も卒業までに時間がかかることは覚悟していたのですが、
どういうことか、モカ君には断続的にお見合いお申込みがありました。

 

WHY?

 

 

「大人のオス猫」
「性格・ふるまい」
「見かけ」

オスの成猫の里親探しが難航している時は、
だいたいこの3つのどこかに当てはまるわけですが…。

 

あ。

 

 

そうか。

モカ君に該当するのは「大人のオス猫」ということだけで、
あとの2つのハードルは存在していないんだ。

 

マイペースな甘えん坊で、のんびり屋。
人慣れしているし、おとなしい。

 

 

そして、ごく普通の白キジであるのに、
カールおじさんと言ったらいいのか、
ドロボー顔と言ったらいいのか、
あるいは、マスク顔とでも言うのか、
口まわりの面白い柄のせいで、愛嬌のある顔。

 

 

 

 

 

 

既にブログで紹介した「けいちゃん」もこういう顔立ちで、
あの子も、常にお見合いの申し込みが来ていたのです。

 

 


けいちゃん

 

 

 

モカ君への問い合わせは多かったものの、
譲渡条件とマッチしていない方からの応募ばかり。
こちらから「ごめんなさい」とお断りすることが続きました。

 

保護直後、モカくんは、上村さんのご主人の存在に
怯えているような素振りを見せていました。
上村さんのご主人は全然怖い方ではありません。
むしろ、物腰柔らかで人当たりの良い方です。

 

「過去に男性に関係した嫌な経験があるのだろうか。」
と、心配になりましたが、時間の経過とともに
モカ君は上村さんのご主人にも慣れました。

 

 

飼い猫・むぎちゃんは、
上村さんのお嬢さん・Tちゃんにあまり懐かず、
距離を置いているそうですが、モカ君は違いました。
膝に乗ってきたり、触っても何してもOK。
上村さんご夫妻同様、Tちゃんもモカ君を可愛がっていました。

 

 

食べることに貪欲なモカ君の体重は6.6㎏。

 

げっ!

 

保護時の4.6㎏から、半年で2㎏増!
かなりの大型猫へと成長している…。

 

 

 

 

 

 

このまま里親さんが見つからなければ、
我が家の2匹目の飼い猫となるのかなあ。

上村さんは、そんな風に考えていましたが、
猛暑の8月、「待ってました!」と思えるご一家から
モカ君へのお問合せをいただきました。

 

前月に、先住猫さんの1匹が21歳で寿命を終え、
現在は、3才半のメスのサビ猫・レイちゃんがいる、
都内E区にお住まいのAさんご一家です。

レイちゃんがやや怖がりで、人慣れしている…とは、ちょっと言い難い。
堂々として落ち着いた(&図々しい・笑)モカ君が加わったら、
1匹になって淋しい思いをしているかもしれないレイちゃんにとって、
いい状況に変わるかもしれないと、Aさんご一家は考えていました。

 

巷には里親募集中の猫がたくさん溢れているでしょうに、
「何とも可愛いおとぼけ顔」のモカ君の画像が目に留まったそうです。

 

お見合いにいらして下さったのは、奥様のミカさん。
猫のことをよく考えて下さる、誠実で思慮深い方でした。

 

 

ミカさんが帰られた後、上村さんも私も、
まだトライアルさえ始まっていないというのに、
「モカ君の家族が見つかった!」と大喜びでした。

 

 

 

 

 

お見合いから2週間後、上村さんと一緒に、
モカ君の2回目のワクチンと駆虫を済ませ、
その足でAさん宅に、モカ君をお届けしました。

 

 

キャリー重…。

 

 

上村さん宅、Aさん宅、それぞれの最寄り駅で考えると、
2軒のお宅は距離が離れているように感じますが、
車では10分ちょっと(5.3km)、直線距離でたったの4㎞です。

 

 


Aさんがご用意下さったモカ君用のケージ。
ハクビシ…じゃなかった、
先住猫のレイちゃんがうろうろしています。

 

 

 

 

食欲がいまいちだったり、トイレを済ませなかったり、
ソファの下に隠れたり…。
新しい環境に移動した猫はだいたいそんなものです。

移動後2日程は、モカ君もそうでしたが、
1週間もしないうちに、本来のモカ君になりました。

 

 


お届けした日の晩は、早速、キッチンに進出。

 

 

ミカさんは、トライアル中の「モカ君ニュース」を
まめに報告して下さいました。
私達が気になっていた先住猫レイちゃんとの関係も、
悪くないようです。

 

 

 

 

べったりくっついて仲良し!というわけではありませんが、
最初は1階と2回、徐々に距離を詰めて一緒の部屋、
しばらくすると、一緒のベッドの上で横になるようになりました。

常に決まった同じ空間を共有し、
脅威の存在ではないと、お互いに納得した時、
「こいつは仲間だから大丈夫」と猫は考えるようです。

 

 

 

 

 

大人の保護猫の場合、トライアル期間は1ヶ月としています。
モカ君の場合も同様でしたが、問題もなさそうでしたので、
トライアル開始から2週間程経った頃、
Aさんご一家にご意思を伺ってみました。

 

「娘が、モカ君をこのままずっと飼えるわけじゃないの?と
心配していたようですので、ぜひお願いします。」

 

とても嬉しいお言葉です。

お届け直後、お嬢さんがいると、ソファの下から出て来たと
おっしゃっていましたので、
モカ君がAさんご一家の中で最初に「仲間」と認識したのが、
お嬢さんだったんでしょうね。

 

 


お嬢さんの隣で寛ぐモカ君。


もちろん、息子さんとも。

 

 

 

 

「保護する」
「保護しない」

 

この二者択一の決断は、簡単なように思えるかもしれませんが、
「命への責任」を背負う覚悟がなくては下せない、難しい決断です。

対象が全く人慣れしていない狂暴猫であったりすると、
比較的、すぐに「保護しない」決断できますが、
単にオス猫であるというだけだったり、
あるいは明らかに厄介な病気を持っている猫だったりすると、
「保護する」勇気が必要になり、悩みます。

 

 

Mさんを初め、畑の作業にやって来る方々が、
地域猫としてモカ君の世話をする話で始まったこの件。

 

「この子は畑に戻したくない」という上村さんの決断で、
モカ君の運命は大きく変わりました。

 

これから、モカ君は、長い長い猫生を、
Aさんご一家の一員として、生きていくことになります。
Aさんご一家にとっても、レイちゃんにとっても、
モカ君が、なくてはならない存在になりますように。

 

 

 

 

モカ君を迎え入れた翌月、Aさんご一家に、
予想もしなかった猫問題が起こるのですが、
それはまた別のお話。

 

 

The End(一応).