あれから1年。あっという間です。

2020年7月。
我が家の庭で暮らしていた地域猫のポッちゃんが、
腎不全の急激な悪化により、推定8年の猫生を終えました。

 

 

 

 

 

 

 

 

私がポッちゃんを初めて見たのは、2015年の年末。
ベテランボランティアの三木さんと一緒に、
隣町(と言っても、歩いて2分)にある、
有名な野良猫製造工場=重田邸の庭
複数の猫達の捕獲作業中のことでした。

 

ターゲットとなるメス猫の動きを観察し、
捕獲器の位置を調整している時に、
重田邸横から1匹の白灰猫がのそっと出て来て、
コンクリートの土台の上に、妙な恰好で座りました。

 

 

「あれはオス。うちの餌を食べに来てるけど、
足も悪いし、すぐにどっかに隠れちゃうよ。
うちの猫じゃないから、あのまま放っといていい。」

 

 

重田のおばあさんは、白灰猫に興味がなさそうでした。
自分の猫だろうが、裏のおやじが餌やりをしている野良達だろうが、
猫ならどの猫でも可愛がっているのかと思っていましたが、
突き放すようなおばあさんの言葉を聞き、
その白灰猫が少し気の毒になりました。

 

 


重田邸で初めて会った時。

 

 

 

それ以降、重田邸の近くや、塀向こうの敷地あたりで、
その白灰猫の姿を、何度か見かけるようになりました。
いつも突然、行く手にポッと現れるので、
私はその猫をポッちゃんと呼んでいました。

 

 

重田邸で、ポッちゃんと初めて会ってから2年後。
近所に住むM姉妹と一緒に、
この辺の未手術の猫達を次々とTNRし、
M姉妹が保護した子猫達の里親探しに奔走していた頃、
我が家の庭に、次々と新しい猫達が現れました。

茶トラのニャース、白三毛のくらら、そして、ポッちゃん。

 

 

ある日、買い物に行く途中、1本隣の通りにいるポッちゃんを見かけ、
15分後に帰宅すると、ポッちゃんは我が家の庭に移動していました。
私は、ご飯をあげて、ポッちゃんの様子を見ることにしました。

 


1本隣の通り、春田アパート階段下にいたポッちゃん。

 


直後、我が家の庭に移動。

 

 

 

 

捕獲して、不妊手術を済ませ、元の場所へのリターンすることを、
TRAP、NEUTER、RETURNの頭文字をとってTNRといいます。

 

私は、許可を得ていない他人の敷地や、公道・公共の場所で、
TNR後の猫に給餌をしないことにしていますが、
我が家の敷地でTNRした猫については、
我が家の敷地内で世話をすることにしています。
出来る範囲で、管理する、ということです。

 

しかし、それは、リターン後、我が家の敷地に戻ってきたら・・・の話。
リターン後に、いなくなってしまった猫たち(全てオス)も過去にはいました。

 

ご飯、寝床が確保されていて、ここが安全だと分かれば、
リターン後もここに留まってくれる可能性は高い。
そこで、TNRに取り掛かる前に、庭にハウスを置きました。

 

 

ニャース、くららは、出たり入ったり、
姿を見ない日もありましたが、
ポッちゃんは自分の居場所として
ハウスを頻繁に使うようになり、
ご飯の時間にはいつも待機していました。

 

 


雨の日にハウス内で休む。

 

 

 

ニャース、くらら、ポッちゃんと、
1匹づつTNRを進めていくことにしました。

猫たちの頭に、TNRが「嫌なことをされた」
という経験としてインプットされれば、
この場所から離れていってしまうかも・・・。
そういう不安はありましたが、

 

心・配・ご・無・用!

 

結果的に3匹とも時間差で戻ってきました。
そして、我が家の庭に定住する地域猫となりました。

 


ここ、俺ん家。

 

 

 

 

3匹のTNRについてはこちらをご覧ください(↓)。

2018年3月7日のブログ
ねこ藩城下の猫たち:④ニャース・くらら・ポッちゃん
https://nekohan.jp/archives/7761

 

 

ハウスで休む。ご飯を食べる。路地で寛ぐ。
裏庭でトイレをする。付近を散歩する。
我が家の前での猫の集会に参加する。

それが、ポッちゃんの毎日。
足のせいもあるのでしょうが、遠出はしません。

 

ポッちゃん、ニャース、くらら。
そして3ヵ月後にはトントンが加わりました。

4匹が庭に住むようになっても、
ポッちゃんは彼らを避けたり追い出したりせず、
テリトリーを共有する仲間と認識していたようで、
静かな毎日を過ごしていました。

 

 

 

 

一番若い、甘えん坊のトントンは
ポッちゃんのことが大好きだったようです。
小さいハウスに2匹でぎゅぎゅうに詰まって
入って熟睡していることもあったし、
ポッちゃんが、トントンの頭を優しく
グルーミングしていることもありました。

 


手前にポッちゃん、奥にトントン。
これは猫トイレですが、春先のハウスとして使っていました。

 

 


熱い日中は日陰でゴロゴロ(くららと)。


少しでも涼しい場所を探して移動します。

 

 

 

 

去勢手術時の体重測定では、5.2kgでしたが、
ポッちゃんはもっと大柄に見える猫でした。
最初は白×グレーの猫だと思っていましたが、
よく見ると、身体のグレー部分には、
うっすらと縞々が見えましたので、白サバだったんですね。

 

 


庭に住むようになり、ふっくらとしてきたポッちゃん。

 

 

 

ポッちゃんの姿を上から見ると、背中がS字に歪んでいました。
ずっと昔に骨折した右足の関節がそのまま固まってしまい、
ポッちゃんは足を曲げることが出来なくなった。
右足をかばいながら引きずって動いていたことで、
姿勢が歪んでしまったのではないかと、獣医さんはおっしゃていました。

 

 


ポッちゃんの座る姿勢。曲げられない右後ろ脚。

 

 

 

ポッちゃんは時々、顔に傷を負っていました。
オス猫の顔に傷がある場合、それはオス猫同士の争いの際、
逃げ出さず、向かっていった証拠と、よく言われます。

 

ポッちゃんの場合、自由に動きにくいというハンデがありますから、
逃げの体制に入るにしろ、飛び掛かる体制を整えるにしろ、
普通の猫達よりも、どうしても動作が遅くなります。

ポッちゃん自身、それはよくわかっていたでしょう。
素早くかわして逃げることは難しいのだから、
向かっていくより他はなかったのかもしれません。

 

取っ組み合いになったとして、
機敏に動くことの出来ないポッちゃんですから、
相手に噛みつく隙を与えてしまう。
お尻に怪我をしていたこともありました。

 

ポッちゃんは、強いボス猫ではありませんでしたが、
臆病で弱気な猫ではなく、勇気のある猫だったと思います。

 

 

庭に住み着き始めた頃のポッちゃんは、
近づくと怖い顔をしてシャーシャーいう猫でした。
手を出すことはありませんでしたが、
保っていた一定距離以上に近寄ると、
むくっと体を起こして、威嚇するのです。

私はあまり気にせずに、ポッちゃんに接していました。
そのうち、シャーシャーはなくなり、
触れるようになるまでそれ程時間はかかりませんでした。

 

 

ポッちゃんは推定6才。
庭に住む4匹の地域猫の中で最年長。
そして一番大きい体格をしています。
だからと言って、ボス風をふかすような猫ではなく、
どちらかと言えば、穏やかで控えめな猫でした。

 

 

 

ご飯は猫達の楽しみのひとつ、1日の中で最も重要な時間です。
夕方、食事の時間が近づくと、決まった食事場所のまわりに、
ニャース、トントン、くららは集まり待機していましたが、
ポッちゃんは時々、少し離れたところに、
ポツンと座っていることがありました。

 

皆がお皿に顔を突っ込み始めても、
ポッちゃんはもじもじとしているのです。

「いやーね、ポッちゃん、まさかボケたの?」

私は、UFOキャッチャーのクレーンの真似をして、
ポッちゃんの両脇に手を入れて持ち上げ、
ウィーンと、食事台前に移動させました。

「ほら、みんなと並んで食べなよ。」

そう言って背中をさすると、食べ始めるポッちゃん。

 

 

フロントライン(駆虫薬)を首の後ろに滴下されたり、
耳の掃除で綿棒を入れられたりするのは嫌なようで、
無理にやろうとすると、時々シャーが出ましたが、
それ以外のスキンシップは嫌いではないようでした。

しゃがんだ私の足元にすり寄ってくるのはニャースとトントン。
くららは遠慮がちに、少し離れたところにいます。
そんな時、ポッちゃんは私の後ろに回り、
私のお尻にこつんと頭をぶつけます。

「俺はここだよ、撫でてよ」

控えめながらちゃんと自分の存在をアピールするのです。

「ミャン」

鳴き声はまるで子猫のようでした。

 

 

 

また、ポッちゃんは意外と遊び好きな猫でした。
路地でボールを転がすと、ぴょこぴょこと足を引きずりながら、
無我夢中で追いかけていました。

 

 

この2年の間、何度か台風や大雨に見舞われましたが、
その度に、入り口から雨が入らないよう、
ハウスの位置を変えてシートを被せたり、
駐車場から玄関横にハウス群を移動し、
強風でハウスがひっくり返らないよう、
ロープやレンガで固定しました。

 

ポッちゃんは観察しながら、すぐそばで辛抱強く待っていて、
準備が整うと真っ先にハウスの中に避難してきました。

荒天の中、私は何度も玄関外の猫たちの様子を確かめました。
皆それぞれ、ハウスの奥の方で小さくなって寝ていました。

 

風が止み、雨が上がると、ハウス入口の覆いを外してあげます。

「もう大丈夫だよ~」

ハウスをコンコンと叩くと、「やれやれ」というように、
猫たちは次々とハウスから出て来て伸びをします。
ポッちゃんは入口から外の様子をしばらく観察し、
大丈夫そうだと確認してから、最後に出てきます。
ポッちゃんには、そういう用心深さがありました。

 

 

 

「よく我慢したね。よしよし。」

頭を撫でて、背中をブラッシングしてあげると、
ポッちゃんはゴロゴロと喉を鳴らし、
もう少しやってと言わんばかりに、頭を押し付けてきました。

 

 

重田邸のあるエリアで、隠れるようにして
6年近い月日を生き延びてきたポッちゃん。
安心して眠れる場所があったのだろうか。
雨の日、濡れずに過ごせる場所があったのだろうか。

我が家の路地に移動してきたというのに、
家の中で飼ってあげられなくてごめんなさい。
でも、安心してこの庭で暮らしていいからね。

 

 

ニャース、トントン、くらら・・・
人慣れしている子達を1匹づつ。
将来、室内に保護して、里親さんを見つけてあげたい。
そして、最後に残るだろうポッちゃんは、
私達が看取ってあげよう。

でも、それはまだまだ先の話。
そう思っていたのです。

 

しかし、ポッちゃんとの別れの日は少しづつ近づいていました。

 

 

 

To be continued …….