前回のお話
2019年4月7日のブログ
そうこちゃんの世界:③そうこちゃんの子供たち

 

 

 

2014年10月。
保護した子猫3匹は室内飼いの家猫となり、
避妊手術を終えたそうこちゃんは倉庫に戻りました。

 

そうこちゃんはおとなしい猫でした。

捕獲器に入った時も暴れることなく、
威嚇することもありませんでした。
リリースした直後も、
倉庫の草山の隣に静かに座り、
こちらを眺めていました。

 

 

今回のそうこちゃん一家の件がひと段落し、
私は菓子折りを持って、倉庫所有者のOさん宅を訪れ、
門の鍵を返却しました。

「手術の終わった母猫1匹だけはまだあの倉庫にいます。
おばあさんは、母猫だけにはこれからもずっと、
毎日餌をあげると、言っています。」

「しょうがないねえ。まあ、猫もそのうちいなくなるでしょ。
あなたもご苦労様でしたね。」

Oさんの奥様は喜んではいませんでしたが、
怒っている様子も全くありませんでした。

 

 

その頃の私はボランティア活動をしているという
意識はありませんでしたし、
「こんなことはもうやめよう」と思っていましたので、
その後しばらく、倉庫に足を向けることもありませんでした。

ご近所の顔見知りの方々から、時々、
「あの猫ちゃん、おばあさんにご飯をもらってるのね。
いつもあそこにいるわよ。」
と聞き、「それなら良かった」と安心していました。

 

 

 

 

 

リリースから1年以上経った頃でしょうか。
ご年配の女性が門の前にしゃがみ込んで
そうこちゃんに何かを与えていました。

「いろんな人がご飯やおやつをあげているみたい。
門の外には出て来ないけど、寄ってくるから。
私もここを通る時は必ず、シ―バをあげてるの。」

その後も、度々、モンプチその他のカリカリが、
門の内側に置かれていたのを見ました。

そうこちゃんは、おばあさんにだけではなく、
他の方々からも可愛がられていることを知りました。

 

 

 

 

 

「猫のボランティアなんかやらない」

そうこちゃんの件が片付いた後、そう思っていたのですが、
ボランティアの三木さんと知り合いになったことから、
猫関係の知人が徐々に増えていきました。
知人が増えると、この地域のあちこちで手伝いを頼まれ、
TNRや子猫の保護が途切れることなく続くようになり
獣医さん通いも頻繁になりました。

ボランティアや、特定の人間に頼るだけではなく、
各自が、自分に出来ることをMAXで行えばいいのに、
動ける時には率先して動けばいいのにに、
協力し合えば解決することもたくさんあるのに、
と思うようになりました。

ぽぽちゃんの飼い主・Kさんの提案もあって、
私は「ねこ藩」というプロジェクトを立ち上げました。
そうこちゃんの件から1年経った頃です。

以降、プライベートな時間はほとんどなくなり、
猫活動ばかりの毎日となってしまいましたので、
既に手術が終わり、地域猫として世話をされている
そうこちゃんのことを気にしていられなくなりました。

 

 

 

リリースから2年が経ち、用事の帰りに、
久しぶりに倉庫に様子を見に行きました。
誰かが投げ入れたプラスチックの衣装ケースの上に
そうこちゃんが坐っていました。
鼻から鼻水が垂れているのがはっきりと見えました。

「風邪をひいてるんだ。薬を飲ませてあげなくちゃ。」

 

 

 

Oさんのところに鍵を取りに行くのも面倒なので、
私は家から脚立と折りたたみイスを持って来て、
倉庫の後ろ側から塀を乗り越えて敷地に入り、
抗生剤を混ぜたちゅーる2本分と、
ad缶に銀のスプーンを添えたフードを皿に盛り、
そうこちゃんに与えました。

その後も2ヶ月に1度くらいは、同様にして
そうこちゃんに薬を飲ませていました。

 

 

 

 

敷地の中で、薬入りフードを用意している時に、
門の外からおばあさんに話しかけられたことがありました。

「おねえさん、そこで何やってんの。
この子は私がご飯をあげている子だよ。
そこの○○さんという人が、すぐに餌をやるなって、
怒るんだけどね、私は死んだってやめないから。」

(ああ、前にも同じセリフ言ってたな。)
(しかも、私は初対面の人間ってわけか。)

 

私はおばあさんに質問してみました。

 

「おばあさん、この子は風邪をひいているの。
ずっとここで暮らしていたら、寿命が短くなってしまうかも。
もし家の中で飼ってくれるという人がいたら、
この子を連れて行ってもいいですか?」

 

ほら来た!おばあさんは怒り出しました。

「あたしがご飯をやってるのに、なんでどっかに連れて行くの!
人間ってーのはね、変わるんだよ。飼ってあげると言って可愛がって、
都合が悪くなると、必ず、また外に捨てるんだから。
そんな目に合うんだったら、ずっとここにいた方がいいの!
ここでご飯を食べてるのに、連れて行く必要がどこにあるの!」

 

いや、そういうつもりで言ったんじゃ・・・。
でも、おばあさんの言うことにも一理あります。
カプ君のもと飼い主親子のような身勝手な人間は本当に多い。
それに、不妊手術を終え、ご飯と居場所を与えられ、
地域猫として世話されている猫を、
無理してわざわざ保護する必要があるのか。

おばあさんや他の通行人がご飯やおやつやお水をあげる。
所有者Oさんに依頼されたバイトの人が草を刈る、掃除をする。。
私が薬を飲ませて、寝床の掃除をして敷き物を変える。

そうか、それでいいのか・・・・。

この敷地に入ることが出来るの掃除の人か私だけ。
倉庫の中に留まって、外にさえ出なければ、
そうこちゃんは安全なのです。

 

 

 

リリースから3年目の冬。
草はなく、無機質なコンクリートの地面。
塀にくっつき、そうこちゃんが丸くなっていました。
そうこちゃんが寝床として使っていた
プラスチックの衣装ケースが、
倉庫のシャッターに立て掛けられていました。
掃除に来た人が一時的にケースをどけて、
そのままで帰ってしまったのでしょう。
そうこちゃんが中に入って寝ることが出来ないじゃないの~もう。

 

 

 

私はすぐにOさんのお宅に行きました。

「私が倉庫の草むしりも、片付けも、掃除もしますから、
あの猫にあの場所をしばらく貸してあげてくれませんか?
あの猫はあの倉庫が自分の家だと思っていて、
寝床が無くなってしまっても、他の場所に移動しないんです。
新しい寝床を用意して、トイレも作って、
おばあさんにもご飯を置きっぱなしにしないように言います。
衛生的に保つように努めますので、お願いします。」

Oさんは高齢ですから、もう面倒くさくなったのかもしれません。
合い鍵を作りなさいと言って、門の鍵を貸して下さいました。

「あの場所に入ってもいいけど、あんただけだ。
きちんとやるというから、あんたに任せるんだよ?」 

 

私は3年ぶりに正面から堂々と入りました(笑)。
そうこちゃんは丸まったまま、じっとしています。

「寝るところがなかったんだね。寒かったでしょ?
もう大丈夫だよ。今、寝床を作るからね。」

私は持ってきたブラシと雑巾で、
プラスチックケースをきれいに掃除しました。
昔、イギリスで暮らしていた頃に長く愛用していた、
古い(アンド高い)羽毛布団を切って加工した猫用布団を敷き、
ケースの前に薬入りのご飯を置きました。
翌日、寝床を確認すると、敷き物にそうこちゃんの毛と
くしゃみで飛沫した鼻水がついていました。

 

 

 

 

1月には雪が降りました。
天気予報を見て降雪になることがわかっていましたから、
前日の夜、ホッカイロを敷きつめたシートを用意し、
それを発砲スチロールの外猫ハウスの中に敷いて、
ほんの少しだけ屋根のある倉庫シャッター前置きました。

発砲スチロールのハウスは小さめなので、
普段使っている衣装ケースの寝床にも
地面からの冷を防ぐウレタンシートと
羽毛布団を敷きつめて、外猫ハウス近くに移動。

 

2日後、積もった雪が溶けていましたので、
敷き物を交換しに倉庫に出向くと、
おばあさんがご飯のお皿を下げているところでした。

 

「ほら見て、あそこにおうちがあるでしょ。
雪が降る前の日に、高校生の女の子が来てね、
あのおうちを作ってくれたの、あたし見てたんだよ。」

 

 

はぁ?
こ、高校生?

(^_^;)

 

 

 

その後も、大雨の日はハウスに雨避けのシートを被せ、
台風の時は、ハウスが飛ばされないように、
レンガでハウスを固定しました。

 

 

この倉庫の問題点は、
道行く人や、裏のコインパーキング利用者が、
この敷地の中に、ペットボトル、カップ麺容器、
コンビニ弁当の箱を投げ入れていくこと。
時々、片付けないと、すぐにゴミが溜まります。

 

ある時は倉庫の中に、
IRISのペットケージが捨てられていました。

 

 

鍵がなければ入れない場所ですから、
塀の上から投げ入れたんでしょう。
そうこちゃんはよく塀の近くに坐っているのですが、
そんな時に、あんなに重い物を上から落とされたら
大怪我をしてしまいます。
大型ゴミは有料ですから、お金を払わない遺棄を選んだんですね。
ひどい人がいるもんだと怒りを覚えました。

(ケージはまだ使える状態でしたので、きれいに洗い消毒して、
ニャジラを保護して室内に入れる際に、飼い主のTTさんに提供しました。)

 

 

 

ねこ藩のSさんや、倉庫近くに住むGさんも、
定期的な草むしりや片付け、糞の始末を手伝って下さいました。

 

 

きれいになった場所で、薬入りご飯を食べる。

 

寝床の前だけに、わざと草を残すこともありました。

 

 

 

その後も、顔を合わせる度におばあさんに言われました。

「ここの猫を誰かにあげるんじゃないよ。
人は変わるんだからね。飼えなくなれば捨てるんだ。
だったら、ずっとここにいればいいんだ。」

はいはい、それ100万回聞いてます。

 

 

 

おばあさんの給餌は1日に3回。
大皿にどーんとカリカリを盛ります。
そうこちゃんが1回では食べきれない量です。
近所に住む他の猫達が、倉庫の中に入って行き、
そうこちゃんの残したフードを食べていることがあります。
そうこちゃんは少し離れた場所に坐って見ているだけ。

今では我が家の庭で世話をしているニャースですが、
彼らも、時々、そうこちゃんのご飯を食べては、
敷地内でくつろいでいました。

 

来るもの拒まず、去る者追わず。

そうこちゃんは他の猫達ともめることもなく、
特定の猫と仲よくなるわけでもない。
適当に猫社会のお付き合いをしているようでした。
テリトリー争いに負けて追い出される可能性だって
あったはずですが、
あの場所が他の猫に侵略されることはありませんでした。
倉庫はそうこちゃんだけの住処だったのです。

 

もっと過酷な環境で生きている外の猫はたくさんいます。
それに比べたら、そうこちゃんは幸せなのかもしれません。

 

倉庫から出ていかないのもそうこちゃんの意志です。
そうとわかっていても、私には時々、
そうこちゃんが囚われの王女のように見えました。

 

地域猫として、ひとり、この場所で生き、
ひとり、この場所で一生を終える。

 

それがそうこちゃんの猫生なのだろうと思っていました。

 

 

To be continued・・・