人慣れして抱っこもさせてくれる、
飼い主のいない可愛いらしい大人の猫が
ある日、お庭にやって来たらどうしますか。

 

 

飼う?飼わない?
避妊手術だけしてリリース?
リリースして終わり?
それとも外猫として世話をする?
室内に保護して里親探しをする?

ボランティアの人間にもキャパシティーがありますが、
個人の方のキャパシティーはもっと小さい場合が多い。
その中でどういった選択をしたらいいのか。

 

 

 

 

 

「最近、庭にやって来る♀猫がいます。
飼えないけれど手術はしてあげたいと思います。」

 

昨年の8月20日の早朝、NGさんからLINEが来ました。
NGさんは、ねこ藩がイベントに参加する際、
いつも物資の運搬を担って下さる方です。

2017年1月。
♂猫に追われ怪我をした状態で庭に迷い込んできた子猫を
NGさんは、迷わずに保護して治療して下さいました。
元気になったその子猫・みのりちゃんの里親探しを、
ねこ藩でお手伝いして以来のお付き合いです。


みのりちゃん→現・キトちゃん

 

 

さて、避妊手術をしてあげたい、というのであれば、
捕まえていただかなくてはなりません。
縁側に置いた箱に入ってくつろいだりしていますが、
近寄るとささっと逃げてしまうということは、
やはり捕獲器での捕獲が確実です。

 

 

 

早朝、連絡が来てから3時間もしないうちに、NGさんは、
我が家に捕獲器と、術後療養の為の2段ケージを取りに来ました。
そして、夕方にはあっさりと捕獲成功。

 

 

 

 

ひと晩捕獲器の中で待機してもらい、翌日、避妊手術。
妊娠初期でお腹には3匹の胎児がいたそうです。
可哀想ですが、堕胎手術となってしまいました。

 

夕方、退院した猫さんは、NGさん宅のケージに入りました。
これから7-10日間、NGさん宅で療養し、回復してもらいます。

とりあえず猫さんには名前をつけてあげましょう。
NGさん宅にはメイ(5月)ちゃんという飼い猫がいますから、
この猫さんは次の月、ジューン(6月)。
でも、言いにくいから、「じゅんちゃん」。

 

その晩、翌日と、じゅんちゃんは大声で鳴いてばかり。
ケージ内で大暴れして、寝床用に作った箱を破壊し、
2階に敷かれたフェルトマットを剥がしてしまいました。
想像とは違って、案外、やり手のようです。

 

 

ケージに入れられてこんなに暴れるということは、
閉じ込められたことがないに違いない。
ケージ内で暴れはするけれど、人に対して攻撃ではないから、
人との付き合い方をある程度知ってるのかもしれない。
痩せていないし、健康的で毛並みもきれいなので、
お世話をしていた人がいた可能性は捨てきれない。
室内フリーで飼われていた飼い猫か、
出入り自由で飼われていた飼い猫か、
外猫としてご飯をもらっていた半野良猫か。

ご飯を貰えなくなり、居場所がなくなったから、
どこかに帰って行く…というわけでもなく、
NGさん宅の庭を居場所と決めて居座ってるの?

 

長い尻尾、きれいな毛並み、愛嬌のある顔。
全く人慣れしていない、というわけではないから、
このまま保護して里親探しをしてみましょうか?
それとも庭に戻し、地域猫としてお世話をしていきますか?

 

その晩、悩んだNGさんから送られてきたLINEです。

「我が家では1匹しか猫を飼えません。
主人と話し会った結果、里親探しは見送り、
リリースすることになりました。」

 

もともと、避妊手術だけして戻す予定での捕獲でした。
じゅんちゃんは可愛い猫だから、もしかしたら、ちらっと、
「保護→里親探し」コースが頭を過ったかもしれませんが、
ケージ内での大騒ぎに、これは先が思いやられると
NGさんは判断したのかもしれません。

 

 

術後、療養期間中のじゅんちゃんは、快食・快飲・快便。
吐いてしまったのは手術の翌日の1回だけ。
よく鳴きますが、ひと鳴きしてはおとなしく寝る、
を繰り返しているいようでした。
療養3日目、ケージ内を整えようとしたNGさんの手を
じゅんちゃんが甘噛みした際に、NGさんが大声を出すと、
箱に入って静かになってしまったとのこと。

NGさんは、食事の管理、トイレ大小のチェック、片付け等を、
ノ―トに記録しながら、きちんとお世話をして下さっていました。
じゅんちゃんもそれをずっと観察していますから、
NGさんの手の動きに驚いて甘噛みはしてしまいましたが、
NGさんのことを「この人は大丈夫」と思っていたでしょう。

 

 

 

療養5日目に、菅野さんと一緒に、NGさん宅を訪問しました。

私達がケージを覗き込むと、じゅんちゃんは鳴きましたが、
何となく寂しそうな鳴き声でした。
ケージの扉を開けて、じゅんちゃんに触れてみました。
気にしている感じでもなさそうなので、
頭、顔、首、背中、お尻、手足…
あちこち触ったり、撫でたりしても、じゅんちゃんは怒らない。

 

 

こんなにいい子を、本当に外に放してしまうの?

相談者のNGさんが「リリースする」と決めたのだから、
本来なら、私がどうこう言うべきことではありません。
私は、自分自身、無理して保護猫を抱えないのと同様に、
他人にもそれを勧めたりはしませんが、
じゅんちゃんに関しては、悩みました。

じゅんちゃんの運命の岐路だからです。

 

 

 

6軒ほどの小綺麗な住宅が立ち並ぶ路地に、
NGさんのお宅がありますが、住人の方々と全員と、
濃いお付き合いがあるわけではなさそうです。

 

「じゅんちゃんを外猫として世話をする気持ちはあるので、
見守って行こうと思います。」
とNGさんはおっしゃいました。

 

今後ずっと、庭で猫の世話をしていくのであれば、
周りの住人に、一言、それを告げた方がいい。
ご近所のお庭で過ごしたり、車の上に乗るかもしれないし、
排泄や爪とぎの問題もそのうち出て来るでしょう。

「お宅の外猫に迷惑しています。餌やりをやめて下さい。」

ご近所からそのような苦情が出た時に、
謙虚で他人に気を遣う性格のNGさんが、
それを乗り越えていけるかどうか。
心労がたまってしまうのではないか。

「リリースしたら、外でオス猫に襲われることがありますか?」
NGさんは私に聞きました。

NGさん宅のある界隈では、地域猫活動が行われていませんから、
未不妊の猫がそこいらに散らばっているようです。

NGさんは、以前怪我をしたみのりちゃんを保護しましたが、
他の野良猫達をTNRしているわけではありません。
じゅんちゃんは、たまたまNGさんの庭にやって来たところ、
♀だから避妊手術をしてあげよう、となっただけで、
そこいらにいる他の猫達の不妊手術を一気に済ませることなんて、
NGさんは考えていないでしょう。
また、それをやったところで、NGさんが路地の住人達に声をかけ、
路地で地域猫活動を始めることも難しいように思います。

そんな場所ですから、じゅんちゃん以外の猫達もいます。
オス猫に襲われる可能性も十分ありますが、それ以前に、
外にいるということは、毎日危ないこと険だらけです。

 

外に放しても大丈夫か?との質問には、
大丈夫なわけはないと、答えるしかありませんが、
かと言って、「外に戻す」選択肢しかないのであれば、
「外に戻す」しかないのです。
こちらが「外に戻すな」と強制は出来ません。

獣医さんの見立てでは、じゅんちゃんは1才を過ぎています。
じゅんちゃんがずっと外にいた猫だとしたら、
生まれてからずっと何事もなく無事に過ごして、
ここまで成長したということになります。
外に戻せば、これまで通り、何事も起こらないかもしれないし、
明日、庭先の有毒植物を口にしたり、車に撥ねられたりして、
命を落としてしまうかもしれない。
そんなことは誰にもわからないのです。

じゅんちゃんにこれからも元気で過ごして欲しいし、
幸せになってもらいたいと思う気持ちが、
NGさんの心の中にあるのは、当然です。
しかし、じゅんちゃんを飼うことは出来ないし、
かと言って、ずっと室内に保護しておくこともきつい。

ということは、NGさんに足りない部分を
他の人間達が何とか埋める手伝いをすればいいわけです。

つまり、NGさんから引き継ぐ形で、
じゅんちゃんを預かって、室内で世話をする人間、
じゅんちゃんの飼い主探しをする人間が必要。

じゅんちゃんを外の生活から卒業させるためには、
数人の人間が協力することになりますから、
せめてじゅんちゃんの命の責任者(保護主)に
なって下さいととお願いすると、
NGさんは、そのことを理解して快諾して下さいました。

「私、車も出しますし、譲渡会にも連れて行きます。
医療費の立て替えがあればお支払いします。
私に出来ることがあれば、言って下さい。」

 

NGさんが手を差し伸べて下さったじゅんちゃんです。
ひとりの人間の優しい気持ちを皆で応援しなくては。

じゅんちゃんは当初、TNRの予定でしたから、
済んでいる医療行為は、避妊(堕胎)手術と駆虫のみです。
手術から1週間後、じゅんちゃんを再度病院に連れて行き、
血液ウィルス検査、三種混合ワクチン、検便を行いました。
健康上の問題は何もなく、若くて快活な女の子です。

 

 

じゅんちゃんの落ち着き先をどうするか。
じゅんちゃんを引きうけてお世話をして下さる方はどうするか。

困ったり、悩んだりするまでもなく、
私と菅野さんの考えは既に一致していました。

To be continued ・・・