前回のお話。
2020年7月24日のブログ
「依頼者が消えました。:⑥ルルの一族(後編)」

依頼者が消えました。:⑥ルルの一族(後編)

 

 

 

 

 

 

保護した7匹のうち、ルルちゃんを除く6匹が卒業していきました。
その間、もちろんルルちゃんの里親探しもしていましたし、
お問い合わせも結構ありました。

 

なぜ、決まらなかったのか?

お申込み者の方々が皆、辞退されたから。

なぜ、申し込んでおきながら辞退するのか?

ルルちゃんは手とお金がかかる子だとわかったからです。

 

 

そうなんです。
手とお金がかかる子なんです、
ルルちゃんは。

 

 

 

 

 

 

 

2019年9月28日に捕獲したルルちゃんは、
その日のうちに病院で、避妊手術、駆虫、
三種混合ワクチン、血液ウィルス検査を終え、
夜はボランティア・Kさん宅のケージに落ち着きました。

手術が終わって5時間以上経っていましたが、
ルルちゃんは麻酔からの覚醒がとても遅かった。
これは、時々あることですので、
その時点ではそんなに気になりませんでした。

 

翌日から子猫達と一緒のケージで過ごすことになりましたが、
元気な子猫達とは対照的に、ルルちゃんはいつまでたっても
ぐったりとしています。
美味しいフードも食べさせているのに、やけに回復が遅い。

 

 

 

ケージの床に敷いたペットシーツは、
すぐにおしっこで濡れてしまい、
布製のハウスやベッドも湿っていました。

 

ルルちゃんは女の子にしては、
体長が長いように見えましたが、
手術の際に病院で測定した体重は2.6㎏でした。
ケージの中に手を入れ、
ルルちゃんを少し持ち上げてみると、
やはり痩せてゴツゴツしていました。

 

 

 

何かがおかしい。

 

 

 

◆10月4日◆

手術から6日目、親子を離し、子猫達を上村さん宅に移動させました。
そしてルルちゃんを病院に連れて行き、血液成分検査をお願いしました。

悪いです。数値は明らかに腎疾患を表しています。

 

BUN:66㎎/dL (正常値は16-36)
CREA:3.3㎎/dL (正常値は0.8-2.4)
体重:2.8㎏(6日間で200g増加)

*腎疾患の場合、検査項目の尿素窒素(BUN)とクレアチニンの数値が高くなります。

 

 

「この時点で、腎不全かどうかを判断するのはまだ早いと思う。
本当に腎臓が悪い可能性もあるが、外から保護したばかりだから、
健康状態が一時的に悪くなっていることも考えられる。
腎臓治療薬をしばらく飲んでもらって、また検査をしてみよう。」

先生の勧めにより、この日から、
腎臓治療薬セミントラの投薬を開始しました。
また、脱水状態にある為、
ソルラクトの補液も連続10日間行うことにしました。

*ソルラクト:乳酸リンゲル液。細胞外液(組織間液、血漿)の量を増やすことが出来る輸液剤。
(ポカリスエットのようなものです。)

 

 

ルルちゃんはくねくねと嫌がる素振りを見せるものの、
暴れて騒ぐことはありません。
私がルルちゃんの首の後ろに針を入れ、
針と管とシリンジを繋いで、ルルちゃんの体を保定する係。
ボランティア・Kさんがシリンジを少しづつ押して、
ソルラクトを注入する係。

分担作業にすると、補液もとても簡単です。

 

 

 

 

 

 

 

◆10月6日◆

前の日に、上村さん宅に移動したルルちゃん達の子猫の便から
コクシジウムが見つかった為、念の為、ルルちゃんも検査。
ルルちゃんの便からコクシジウムは見つかりませんでしたが、
予防目的で、治療薬プロコックスを飲ませました。

また、腎臓サポートスペシャル(ドライフード)を
与えることになりました。

 

 

 

 

 

 

◆10月13日◆

ルルちゃんの10日間連続の補液が終わりました。
ルルちゃんがペットシーツにおしっこをする頻度もかなり減りました。

 

 

 

 

◆10月15日◆

ルルちゃんの2度めの検査です。

 

BUN:51㎎/dL (正常値は16-36) 前回の数値 66㎎/dL
CREA:2.6㎎/dL (正常値は0.8-2.4)前回の数値 3.3㎎/dL
体重:3.1㎏(9日間で300g増加)

 

数値は少し改善してましたし、
体重も順調に増えています。
治療薬と療法食をこのまま続け、
3ヵ月後に再検査をすることになりました。

 

順調に体調が戻り、体重も増えてきたルルちゃん。
早く健康を取り戻してくれますようにと願うばかりです。

 

 

 

 

 

◆10月18日◆

ルルちゃんは、保護から3週間お世話になったKさん宅を離れ、
預かりに手をあげて下さったAさん宅に移動しました。

 

 


保護以来、初めてケージの外で自由になりました。

 

 

治療中であるけれども、ルルちゃんはまだ1才ちょっと。
これからもっともっと元気になり、長生きするのです。
そう信じて、経緯と現状を説明分に加え、
ルルちゃんの里親探しを始めました。

 

 

 

 

 

ルルちゃんの子猫達や他の猫さん達の里親探し、お見合い、お届け。
いちかわ市民まつり、ポップインフェスティバル等のイベント。
あっという秋は終わり、冬になり、年号が変わりました。

 

 

 


Aさん宅で飼い猫のように暮らすルルちゃん

 

 

 

 

◆2020年1月21日◆

ルルちゃん、3度目の検査です。

 

BUN:32㎎/dL (正常値は16-36) 前回の数値 51㎎/dL
CREA:1.7㎎/dL (正常値は0.8-2.4)前回の数値 2.6㎎/dL
体重:3.6㎏(3ヵ月で500g増加)

 

BUNもCREAも正常値内に入ってる!

一瞬、飛び上がる程嬉しくなりましたが、
それは治ったということではないと、私もわかっていました。

腎臓は一度ダメージを受けるとそこから完全回復することはない。
更なる悪化を食い止め、いかい長くその状態をキープできるか。

先生は、3ヵ月後にSDMAの検査をしてみようとおっしゃいました。

*SDMA:腎不全の早期発見が可能な検査。SDMAを数回行い、
その結果から、腎不全のステージを診断できるそうです。

 

 

 

 

 


Aさんに抱っこされて。

 

 

 

◆4月7日◆

政府が、新型コロナウィルス感染拡大防止の為の緊急事態宣言を発出。
1ヵ月の外出自粛要請が出た為、中旬に予定していた検査を延期。

 

 

◆5月12日◆

かなり大きく丸っこくなったルルちゃんを連れての通院。
洗濯ネットに入れて保定し、採血しようとすると、
ルルちゃんは嫌がって、Aさんの手を噛みました。
弱々しかったルルちゃんはどこへ・・・。

SDMAは外注検査になりますので、結果待ちです。

 

 

◆5月17日◆

ルルちゃんのSDMA検査結果。

BUN:28.8㎎/dL (正常値は16-36) 前回の数値 32㎎/dL
CREA:2.31㎎/dL (正常値は0.8-2.4)前回の数値 1.7㎎/dL
体重:4.2㎏(4ヵ月で600g増加)

 

BUNがやや減少、クレアチニンが上昇。
どちらも正常範囲以内の高めの数値。

素人目には、そんなに悪化しているようには見えませんが、

「治療薬・療法食を継続しているが、
大きく改善しているとは言えない。
3ヵ月後にもう1度検査をしてみるが、
この状況では、まず、ルルちゃんは、
初期の腎不全を患っている子と考えた方がいい。」

と、先生はおっしゃいました。

 

 

ああ、ルルちゃん・・・。

 

 

 

 

まだ2才にもならないのに、これから先の猫生ずっと、
腎疾患を背負って生きていかなくてはならないなんて。

 

でも・・・

 

完治はあり得なくても、進行スピードを遅くすることは出来る。
なにしろ、ルルちゃんが、食欲旺盛で元気そのもの。

 

そうね、前向きに行きましょう。

 

ここで、これまで飲んでいた治療薬セミントラをストップし、
効果の期待できるラプロスという薬に変えることになりました。

口の横から、シリンジでちょこっと注入すればセミントラと違い、
ラプロスは口を開けさせ、喉にぽとんと落としてあげなくてはなりませんが、
Aさんは、手際よく、ルルちゃんに投薬して下さっています。

 

 

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このブログを書いている現在、
ルルちゃんの保護から10ケ月が経過しました。
その間、ルルちゃんはずっと、
腎臓に負担のかからない療法食のみを食べ、
腎臓治療約を飲み続けています。

 

この10ヶ月の間に、保護猫であるルルちゃんに
かかった費用を記しておきます。

 

●医療費合計・・・41300円

避妊手術 5500円
駆虫(レボリューション) 1000円
三種混合ワクチン 2500円
血液ウィルス検査 3300円
1度目の検査 3000円
抗生剤等の注射 3500円
ソルラクト輸液6本 3000円
駆虫(プロコックス) 1500円
2度目の検査 3000円
3度目の検査 4000円
1度目のSDMA検査 11000円

●治療薬合計・・・48840円

セミントラ30ml1本目 5500円
セミントラ30ml2本目 5500円
セミントラ30ml3本目 5500円
セミントラ100ml1本目 10259円
セミントラ100ml2本目 10381円
ラプロス(5月17日~6月16日) 3900円
ラプロス(6月17日~7月17日) 3900円
ラプロス(7月18日~8月17日) 3900円

●腎臓用療法食合計・・・58698円
2019年10月 2816円+1600円+14241円
2020年1月 22981円
2020年6月 17060円

総合計:148838円

 

この他に、ルルちゃんのあしながおねえさん・KUさんから、
2回程、腎臓用療法食を寄贈していただいていますが、
KUさんは40000~50000円くらい出費していると思います。
(KUさんには、心から感謝しています。)

 

ルルちゃんの保護費用概算
200000円近く。

 

そう。
ルルちゃんは、手とお金がかかる猫なんです。

 

 

 

 

 

 

昨秋、ルルちゃん保護から数週間経過した頃、
「ルルちゃんは腎臓が悪いようです。普通のご飯が食べられない。
ルルちゃんを家の中で飼ってあげられませんか?」
と、ルルちゃんにご飯をあげていた橋本さんに訊ねてみました。

橋本さんの答えは
「うちには飼い猫が1匹いるし、私達夫婦もこの年だから無理。
リリースするなら、またご飯をあげるけど、前と同じもの。
腎臓用療法食とか薬とかお金はかけられない。」
でした。

また、ルルちゃんが橋本さん宅に移動して、
そこでご飯をもらっていることを知って喜んでいた
細谷さんにも同じように訊いてみましたが、
「息子の嫁が猫が嫌いなので、自分の部屋の中にケージを置いて、
その中で飼う方法なら、1匹くらいは飼ってもいいと思う。
でも、薬を飲ませるとか補液とかはちょっと難しい。」
との返答でした。

 


路地にいた頃のルルちゃん

 

 

私は、最初から、ルルちゃんをリリースするつもりはありませんでしたが、
もしも、ルルちゃんを知っている、橋本さんか細川さんが飼って下さるのなら、
その方がいいかな、と思っていましたので、これで、その選択はなくなりました。

 

猫を保護する際には、
その猫の命の責任者となる保護主がいます。

例えば、冬の夜道で、お腹をすかせ、
母猫を探してミーミー鳴いている1匹の子猫がいたとします。
可哀そうで、見捨てられず、家に連れて帰ってミルクを与え、
体を温めてやるとします。
その子猫の保護主は他の誰でもない。
保護して連れ帰った人間が保護主です、一般的には。

 

ボランティアのNさんは、
ルルちゃん一家の捕獲に出向いて下さっただけで、
保護主ではありません。

ボランティアのKさんは、ルルちゃんを療養させて下さり、
落ち着き先が見つかるまで預かって下さいましたが、
Nさん同様、保護主ではありません。

私は当日の捕獲に立ち会っていませんから、
ルルちゃんを連れて帰った人間ではありません。

 

では、ルルちゃんの保護主は?

 

物事の流れから、私が保護主になるしかないでしょう。

保護主というのは、猫の命の責任者です。
里親さんが見つかるまで、薬代も食費も、
全て負担しなくてはなりません。

ルルちゃんという1匹の猫に、
これだけ費用が発生するのですから、
個人ボランティアにはきついものがあります。

 

Nさんも、Kさんも、私も個人ボランティアですが、
私には、ねこ藩というプロジェクトで集めた資金があります。

資金の使用目的は、TNR、保護費用(医療費、フード)、
備品代、イベント、啓発広報。

ルルちゃんは保護猫ですから、その費用負担は、
本来の資金の使用目的にかなったものです。

 

私はルルちゃんの保護主となりました。

ルルちゃんを初めての検査に連れて行った時から、
それは覚悟はしていました。

最終的に、里親さんが見つからなければ、
ルルちゃんを飼い猫として受け入れることになります。
家族の意向がありますので、
実質、我が家ではそれは無理なのですが、
選択の余地はありませんでした。

誰かが保護主にならなければ、
誰かが費用負担をしなければ、
ルルちゃんの命を助けられなかったからです。

 

昨秋からルルちゃんを預かって、
ケアをして下さっているAさんには、
本当に感謝しかありません。

 

 

そういう事情もあり、里親さん探しをずっと続けています。

募集内容に、病気のことも記してあるのですが、
その部分をきちんとお読みになっていないのか、
お読みになったとしても、そのうち治るとでも思っているのか、
人慣れしていて、可愛らしいルルちゃんへの
お問い合わせは断続的にありました。

お問合せに対して、病気のことを今一度説明し、
治療薬と療法食が必要な猫であること、
普通の健康な猫の倍以上の飼育費がかかることをお伝えすると、
皆さん、「そういう子でしたら飼えません。」
と、辞退されるわけです。

 

 

 

 

 

でも、私は諦めてはいません。

「そういうハンデを背負っている猫を世話してあげたい」、
「腎不全の飼い猫を看取った経験があるので、お世話できます。」

ルルちゃんが、そういう方々の目にとまりますようにと、
ルルちゃんの命のバトンを責任持って受け取って下さる里親さまを
保護以来、探し続けているのです。

 

 

初期の腎不全を抱えていますが、
保護当時、痩せこけて力なく横たわっていたルルちゃんはいません。
今ではずいぶんと大きくなり、長くなり、丸っこくなり、
Aさん宅の飼い猫、あさりちゃん、しじみちゃんを差し置いて、
一番えらそうに、自由にふるまっている、気の強い子です。

 

ルルちゃんがここまで復活を遂げてくれたことへの喜びはありますが、
ルルちゃんの指の先に繋がっているご縁にたどり着いた時、
それこそが1番の喜びになるでしょう。

 

 

 

 

 

To be continued ・・・