どんな亡くなり方をしても、それを看取る側は辛いものです。
それでも、飼い主さんに看取られ、ベッドに横たわったまま、
その生涯を終える猫は幸せとは言えないでしょうか?

ひとりぼっちで亡くなってしまう猫も多いのですから。

 

 

 

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(3)名無しのキジトラさん

 

我が家から歩いて5分もかからない場所に、
店舗を構えているTさん。

Tさんは猫好きな方で、長生きした飼い猫さんを看取った数年後、
ふくねこやさんから2匹の子猫を迎えて、ご自宅で飼っています。

 

 


Tさんご一家の飼い猫
ひめちゃん(左)とロイくん(右)

 

 

Tさんは、お店の外でも猫の世話をしています。
Tさんのお店付近には、代替わりしつつ常に1-2匹の猫がいて。
Tさんと、向かい側の共同住宅に住むWさんとで、
猫達の給餌を続けています。

 

現在いる猫は、2年前の夏にTNRしたとらくんと、
Tさん店舗の前にあるお宅に住み着いているつくねちゃんの2匹。
ここ数年の固定メンバーです。

 


とらちゃん(左)とつくねちゃん(右)

 

 

 

6月20日の昼間。
Wさんが給仕をしている共同住宅の敷地内に
行き倒れている猫がいると、Tさんから電話がありました。

 

亡くなっていたのはキジトラ猫です。

この辺りの地域はTNRが進んでいて、
外で生きるほとんどの猫には耳カットが入っていますし、
あちこちで、誰かしらお世話をして下さる方がいるので、
皆、丸っこい体形で健康そうな猫ばかりです。

 

飼い主のいない猫達がコントロール出来ている地域ですから、
耳カットのない猫が突然現れると、すぐに情報が入ってきます。

同じ〇丁目でも、北側の一角には、
まだTNRが済んでいない猫がいる地域もありますから、
そちら方面から、パトロールでやって来た猫でしょうか?
あるいは、引っ越し等で置いていかれた?

 

 

 

このキジトラさんには耳カットがありません。
体も丸っこく、毛並みもいい。

「私達が知らないだけで、この辺のどなたかが
飼っていた猫ではないかしら?
出入り自由にしていたか、脱走してしまったとか?」

Tさんはお仕事中でしたが、市役所に連絡をして、
取り急ぎ写真を2枚、撮影して下さいました。
写真があった方が、飼い主さん、
あるいはこの猫を知っている方を見つけやすいからです。

(遺体の回収にくる場合、耳カットが入っていないと、
地域猫ではなく野良猫扱いになり、写真を撮影しないと、
昨年、スギくんの捜査の際に市役所清掃課から聞きました。)

 

 

顔を撮影しようとしましたが、
丸まった体は既に固くなっていました。
その為、性別の確認も出来ませんでした。

しかし、背中の上半分が明るい茶色の縞々で、
キジトラではなく、ムギワラっぽいことから、
この猫さんは、女の子ではないかと思います。

 

 

 

キジトラ、いや、ムギワラさんが亡くなっていた場所は、
Wさんが敷地内の物陰に置いた箱の中です。

具合の悪いムギワラさんが、この辺りを歩き回っている間に、
箱をみつけ、ちょっと休もうとその箱に入ったのか、
あるいは病気でも何でもなくて、ただ単に、
ちょうどいい寝床があるなと、入って休んでいる間に、
心臓系の発作に襲われてなくなったのか。

 

想像することしかできません。

 

 

 

このムギワラさんが、もしもどなたかの飼い猫だったとしたら、
飼い主さんは帰って来ないムギワラさんを心配しているはずです。

 

チラシを作って、自治会の掲示板に貼りましょうということになりました。

ちょうど3つのブロックに接している場所ですので、
Tさんが〇丁目7か所、Wさんが△丁目12か所、私が□丁目12か所と、
分担してチラシの貼付作業を行いました。

 

 

 

飼い主さんがこのチラシを見かけ、連絡を下さいますように。
そう願う一方で、もし、この猫さんが飼い猫さんだったとしたら、
猫さんは外でひっそりと亡くなってしまったわけですから、
飼い主さんには、ひとこと言いたいです。

 

「大切な飼い猫なら、外に出さず、室内で飼ってあげるべきですよ。」

 

 

 

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(4)シロくん

 

6月4日。
ねこ藩のInstagramにDMで相談が届きました。

「よい病院があったら教えていただきたい。
また、どのようにすればいいのか知恵を拝借したい。」

 

詳しく状況を伺ってみました。

 

近所に地域猫の世話をしている方々がいる。
最近、お世話をされている地域猫達とは違う、
白黒の猫が来るようになった。
怪我をしているようで片目は潰れ、
胸元も爛れてしまっている。
お腹をすかせているようで、とても痩せて弱々しい。

 

毛並みも悪く、痩せています。

 

 

 

 

相談者のMさんは、その猫さんを何とかしてあげたいと思ったのです。
野良猫を受け入れてくれる病院があるならば、怪我の治療をしてあげたいと。

人慣れしていない猫だということで、捕獲器を貸し出し、
いつもお世話になっている動物病院を紹介しました。

 

しかし、Mさんご一家には車がなく、
その動物病院まで猫を連れて行くことは
かなり難しいと思われたので、
そこは私がお手伝いしようと思っていました。

 

また、Mさんご一家には飼い猫が1匹いて、
可哀そうだけれど室内には入れてあげられないとのことでしたので、
治療後の療養はベテランボランティアのKさんにお願いしようと考えました。

Kさん宅の事務所には5-6台、ケージが設置してあります。
いつも預かっていただくのは申し訳ないからと、
数年前に、こちらからの申し出で、預かりはひと晩いくら…と、
有料の形にしていただきました。

 

 

だいたいこんな感じで・・・と大まかなスケジュールは頭の中で組み立てましたが、
あいにく、Mさんと私の予定がなかなか噛み合いません。
Mさんはお子様がいらっしゃる年代ですが、
一念発起して大学に入学され、若い人に交じって勉強の毎日。

Mさんに空き時間がある時は、私が仕事で出ていたり、
私が時間を作れる時には、Mさんが不在だったり。
また、同じ市内でも、我が家とMさん宅とはかなり離れていますので、
他の用事のついでにということも、ほとんどありません。

 

Mさんのご住所を伺っていましたので、
私が車で捕獲器を持って行き、
玄関前に置いてくることも考えましたが、
Mさんは捕獲器の使用経験がありませんから、
使い方を説明しなくてはいけません。

また、捕獲器は、盗まれて悪用されることもありますから、
やはり、直接会って手渡しをする必要があります。

 

 

 

その後、猫さんは姿を見せたり見せなかったり。

ご近所に住む猫嫌いの住人が、保健所に電話をすると言っていたり、
(保健所に行ってもどうにもなりませんが)
シロくんを気にしているMさんのことまで怪訝に思っているようです。

 

そんなご近所の目を気にしつつ、Mさんは
その猫=シロくんが来れば、ご飯を食べさせました。

 

 

 

Mさんから、あらためて
「捕獲器とケージを貸していただけますか」
と連絡が来ました。

何とか玄関の雨どいの下にケージを置いて、
治療後のお世話をして下さるようです。

 

しかし、その日もお互いすれ違い、
会うことが出来ませんでした。

 

 

初めて相談の連絡が来てから10日後の夕方、
Mさんから電話がありました。

 

「今日の夕方帰宅したら、近所に人だかりが出来ていて、
シロくんが倒れていました。」

 

シロくんの尻尾がかろうじて動いているのを見て、
Mさんは、シロくんをキャリーに入れ、
飼い猫が通っている動物病院にシロくんを連れていきました。

 

 

 

残念ながら、間に合いませんでした。
シロくんは息をひきとりました。

 

 

「倒れているシロくんに駆け寄ると、
シロくんは何度かニャーと鳴いたんです。
私がもっと早く行動を起こしていれば、
私にもっと知識があれば、助けてあげられた、
本当に後悔しています。」

 

Mさんはそうおっしゃいました。

 

 

それは私も同じです。

 

体調が悪くボランティア活動を停止しているからとか、
仕事中なので、捕獲器を持って行けないとか、
自分が動けない理由・事情はありました。
しかし、何とかしようと思えば、何とか出来たはずです。

それを、Mさんの都合が悪いのならば、
都合のいい時まで待とうと、積極的に動こうとしなかった。

誰かに頼むという選択肢もあったのに、
他人を巻き込むのは迷惑になると遠慮してしまった。

 

 

私も心から後悔しています。

 

 

シロくんは、Mさんに何かを伝えたくて、
最後に鳴いたのかもしれません。

 

猫だって、人と同じで、感情はあります。
記憶も認識力もあります。

だんだんと薄れていく意識の中で、
いつも自分に優しくしてくれた人がそばにいる、
とわかったのかもしれません。

 

 

シロくんは、あの地域で生まれ、オス猫同士の争いを続けながら、
あっちこっち移動しつつ、野良猫として生きてきた猫でしょう。

痩せ衰えて、怪我をして、弱ってもなお、
空腹を満たすために、生きるために、野良猫は常に必死です。

 

 

そんなシロくんと出会って、何とかしてあげたい、
自分に出来ることは何だろうと考えたMさん。

Mさんがシロくんを初めて見た時、
シロくんの状態は既にかなり悪化していたと思います。

その時点ですぐに病院に連れて行ったら、
少しは寿命を延ばしてあげることが出来たかもしれない。
あるいは、出来ることはもう何もなかったかもしれない。

 

今となっては、わかりません。

 

結果として、2週間も経たないうちに、
シロくんは静かに逝ってしまいましたが、

そのことで、Mさんを責めることの出来る人間なんて、
この世には誰もいないはずです。

 

最期の最期に、人の優しさに触れて、
旅立っていったシロくん。

 

 

市川市には、千葉県には、日本には、
飼い主のいない猫達がまだまだだくさんいますが、
私達が生きている間に出合う猫の数なんて、
その中のほんの一握りにもならないでしょう。

 

だからこそ、出会った猫のことを覚えておいてあげたい。
Mさんご一家も私も、シロくんのことは忘れない。

 


Mさんのお宅には、シロくんの写真が飾られています。

 

 

 

ねこ藩のブログやInstagramをご覧になって下さっている方は
僅かばかりだと思いますが、どうか皆さん、

シロくんという猫がいたことを覚えていてあげて下さいますか。
よろよろになっても、誰も手を差し伸べなかったシロくんを、
温かい目で見て下さり、助けてあげようと思って下さった、
Mさんという方がいたことを覚えていてあげて下さいますか。

そして、いつかシロくんのような猫に出会ってしまったら、
ご自身で出来る範囲内でいいから、助けてあげて下さいますか。

抗生剤を混ぜたご飯をあげるとか、お水を置いてあげるとか、
雨宿りが出来るように箱をおいてあげるとか、
交通量の多い道路に出ないように誘導してあげるとか。
そんなことでも構わないんです。

 

野良猫は多くを望んではいないだろうし、
私達人間に何かを期待してもいないでしょう。
媚びるわけでも、すり寄ってくるわけでもない。

でも、私達のほんのちょっとした手助けが、
猫にとっては大きな救いとなることもあるんです。

 

生き物に優しく接することの出来る人は、
人に対しても優しい気持ちを持てる人なのではないかと
私は思います。

 

猫が嫌いな人や野良猫に眉をひそめる人達にとっては、
到底、理解できない心理・行為でしょうけれど。

 

 

The End.