ニャースが初めて我が家に現れたのは、2018年2月のこと。
それ以前にも、このエリアのあちこちで何度か見たことのある猫でした。
不定期ですが、時々、路地にやってくるところから始まり、
ご飯を与えるようになると、拠点変えをしたのか、
常に我が家の路地にいるようになりました。
同時期に、同じ方面から、ポッちゃんとくららがやって来ていましたので、
順番に3匹の不妊手術を行い、寝床となるハウスを用意して
みなさまには我が家の庭で地域猫生活をスタートしてもらいました。
TNR後のニャースは、当然のように、ハウスで寝泊りするようになりました。
朝、夜とご飯の時間になると、給餌場所である車の後ろで
きちんとスタンバっています。
ニャース、くらら、ポッちゃんの手術から3カ月後、トントンが加わり、
我が家の路地には4匹の地域猫が定着しました。
4匹揃ったブログ
https://nekohan.jp/archives/10026
白三毛のくらら、灰白のポッちゃん、白黒のトントン、茶トラ白のニャース。
ニャースは自己アピールが強い男です。
来客の車やバイクにしつこいほどぬりぬりとマーキングを繰り返し、
人間の足近くに陣取ります。
知り合いと玄関前で立ち話をしている時など、
人間と人間の間を縫うようにくねくねと動き回ります。
ずいぶんと人馴れしている子ですね。
ニャースのそんな姿を見た方々は皆そうおっしゃっいます。
そうなんです。
人馴れしているというか、人を怖がらないのです。
こういう行動を取る猫は、だいたい、もと飼い猫か、
人にご飯をもらったり世話をしてもらっていた猫。
なぜその場所を離れて我が家に引っ越してきたのかは不明ですが、
恐らく、毎日ご飯がもらえなくなったとか、
もとの場所の猫人口が高くなっていづらくなったとか、
そんなことかもしれません。
4匹いる地域猫の中で、室内飼いの飼い猫になれそうな子は?
と聞かれたら、もうそれはダントツでニャースでした。
地域猫は飼い主のいない、外で生きる猫ですから、
このまま庭で暮らし猫生を全うする・・・・・でもいいのですが、
行動を見守りつつ、きっかけがあれば1匹づつ保護して
里親探しをしていこうと決めていました。
私が玄関先で立ち話をしていると、様子を見にきます。
2019年12 月、首に傷を負ったトントンを治療目的で捕まえ、
そのまま室内に保護しましたので、
庭の地域猫はポッちゃん、くらら、ニャースの3匹になりました。
2020年初夏、健康状態が徐々に悪化していたポッちゃんが、
腎不全で亡くなり、ニャースとくららの2匹が庭に残りました。
トントンが卒業したら、次はニャースを保護、と当初は考えていたのですが、
徐々に人馴れしてきたくららを先に保護した方がいいように思えてきました。
くららはこのエリアにいる数少ないメスの地域猫。
体も大きくないし、オスばかりの地域で生きづらいのではないか。
見た目のソフトさとは異なり攻撃的なところがあるニャースは、
他のオス猫達が流入してくるのをシャットアウトする存在。
この路地のボスであってもらいたいと密かに願っていました。
両隣の方々も、ニャースを可愛がって下さっていましたし、
女の子のくららを1匹庭に残すくらいなら、強いニャースを残そう。
(私の描いた勝手な構図ですから、賛否両論あるとは思います。)
仲が良いのか悪いのか、たまに喧嘩が勃発しそうになったり、
くららが一方的に追い回されたりしつつも、
地域猫2匹の生活は特に大きな問題もなく続いていました。
朝と夜、ニャースとくららの食事風景。
2021年4月22日のことです。
ニャースの姿を丸一日確認できませんでした。
我が家の庭で暮らすようになってから初めてのことです。
夜中も外に出て家の周りや路地を出て隣の通りを探しました。
いつものように名前を呼んでみましたが、ニャースは現れない。
世話をしている地域猫といっても、所詮外で生活している猫ですから、
ロードキルの可能性はついてまわります。
気が重いですが、朝になったら市役所の清掃課に問い合わせをして、
この住所近くで茶トラ猫の死体回収があったかどうかを調べてもらおう。
そんなことはあって欲しくないけれど・・・。
ひと晩、不安な気持ちで過ごしました。
早朝、庭のハウスはまだ空です。
空腹で帰ってくるのではないかと思い、
ハウスの前に朝ごはんを置いておきましたが、
昼を過ぎてもフードはそのままでした。
日中、車の上や玄関の階段でよく昼寝をしているニャースですが、
姿はありません。
夕方のご飯の時でさえ、現れませんでした。
おかしい・・・・・。
夜になり、懐中電灯でハウスの中を照らしてみると、
ハウスの奥に、子猫のように小さく縮こまって
ニャースが座り、力ない目つきでこちらを見ています。
帰ってきてる!
安心したのとほぼ同時に、ゾッとしました。
ニャースは、普段、入り口から外を眺めるようにして中に座り、
寝るときは必ず入り口から頭が見えていました。
ハウスは奥行きが60㎝ほどあるもので、
一番奥に入ってしまうと、入り口から見えにくい。。
もしかして、ニャースは
ずっとハウスの中にいたのでは?
玄関から出て、ハウスの入り口からニャースの顔が見えないので、
ハウスは空だと私が勝手に思い込んでしまっていたのではないか?
絶対にそうだ。
ニャースは実は夜中に帰ってきていたんだ。
具合が悪いのかな?
ニャースがいつも上に乗っかっているクッションを洗濯し、
乾いてきれいになったところだったので、
ハウスの手前に入れてあげましたが、
ニャースはクッションを横に押しやりました。
ちょっと何これ!?
再び懐中電灯のスイッチを入れ、入り口付近を照らしてみると、
血のついた敷物が見えました。
手を差し込んでニャースに触った時、ぬるっと湿った感触がありました。
下半身に大怪我をしているようで、パッと見ですが、
骨が露出しているように見えました。
きちんと見てみようとハウスのフタを持ち上げると、
ニャースはうずくままったまま、こちらを見上げていました。
そして、か弱い声で「へ~」と鳴き、
入り口からするりと出て、隣のハウスに入っていきました。
いや、するりという動きではない。
怪我をした下半身をずるずると引きずり、
ワニのように這って歩く不自然な歩き方です。
なんでこんなことに!?
心臓がドキドキしてきました。
この地域で夜間も診察を行っている病院は一か所、K病院です。
慌ててK病院に電話して診察をお願いすると、
あいにく緊急事態で医師の手が塞がっており、
現在は夜間診察の窓口を閉めています、
23時過ぎに再度連絡を、ということでした。
23時過ぎに連絡してみると、病院は少し落ち着いたようで、
朝の4時にニャースを診察して下さることになりました。
痛そうな悲鳴をあげるニャースをハウスから出してキャリーに入れ、
朝の4時少し前にK病院に到着。
その場で診察して下さるのかと思っていたら、
「検査ができるのが10時以降なので、お預かりします。」
診察も検査もできないのであれば、朝の4時にニャースを連れてくる
必要があったのか?
と疑問に思いましたが、とにかく、なんとしても
ニャースを診ていただかなくては。
「怪我をしていて、足の骨が見えているようなんです。
検査が終わったら早急に処置をお願いします。」
当直の若い獣医師は、ちらりとキャリーの中を除き、
「こういう怪我は時間も費用もかかると思います。
骨折だとしたらボルトを入れたりする手術が必要になり、
1週間以上の入院になりますから、
それだけでも最低30-40万円はかかってしまいますよ。」
なぜ、いきなり費用の話を?
ああ、そうか、わかった。
飼い猫ですか?と聞かれ、
私が「地域猫です」と答えたからだ。
飼い猫ではない猫に、
それだけの金額を払う心づもりがあるんですか?
ということなのかもしれない。
11時半くらいには検査や診察が終わると思いますので、
こちらから連絡を差し上げます。
ではニャースちゃんをお預かりします。
大変。
大変。
大変。
ニャースの今後のことなのか、お金のことなのか、
自分でもよくわかりませんでしたが、
不安で胸が押しつぶされそうになりながら、
家に帰ってくると、はっと息を飲んでしまいました。
血が!血が!
出かける時には気づきませんでしたが、
すっかり明るくなった今、はっきりとわかりました。
車道から路地に入るところの歩道、
そして我が家の駐車場に
引きずったような乾いた血痕。
あの子は必死に帰ってきたんだ。
オレの家に帰らなくちゃ、と。
近所の他の場所でアクシデントに見舞われたなら、
車の下とか、空き家とか、塀の裏とか、
隠れる場所はあったはずです。
しかし、ニャースは怪我をした血だらけの下半身を引きずって
路地を目指し、我が家を目指し、自分の寝床を目指した。
痛みをこらえて懸命に這ってきたニャースの姿を想像して、
目頭が熱くなりました。
To be continued