前回のお話。
2025年8月10日のブログ
「ねこ藩城下の猫たち:(20)がんばれニャース。」
https://nekohan.jp/archives/18003
ニャースの入院理由は2つ。
満身創痍のニャース。
その①:【術後の観察と必要な処置】
大きな手術をしたのですから、その後の経過観察が必要です。
口から摂取した食物を排泄するという基本的な、そして、あたりまえの機能。
排便に関しては、骨盤骨折の影響で便の通り道が非常に狭くなってしまい、
今後は便秘症になる可能性大でした。
極度の便秘というのは、腸に便が詰まってしまう状態。
滞留便のせいで腸が伸びて膨らみ、巨大結腸症になると、
腸は動かなくなってしまうので、自力排泄が困難となります。
飼い主ができることとしては、高繊維の食事と水分をとらせる、
消化器官に働きかける薬を与える、お腹のマッサージをする等。
改善が見られない場合、(獣医師が)肛門に指を入れて便を掻き出す摘便になりますが、
肛門近くに溜まっている便にしか指は届きません。
また、浣腸をすると下痢状になった便が勝手に出てきてしまい、
ケージにでも入れていないと部屋が大変なことになります。
最後の手段として巨大化して収縮しなくなってしまった部分の腸を
切除するという外科手術になりますが、
尿道再建の手術が終わったばかりのニャースの体に
これ以上の負担をかけるのは酷です。
排尿に関しては、手術によって、膀胱が直接一番下の乳首に繋げられ、
尿の通り道が出来ました。
しかし、尿が溜まると自動的にそれが乳首から流れ出てしまう、
いわゆる垂れ流しの可能性がありました。
そして、尿道がなくなり、膀胱が排尿口から「すぐそこ」の状況になったことで、
細菌感染を起こしやすくなりました。
最近感染を防ぐためには、常に排尿口(乳首)が
清潔に保たれていなくてはなりません。
尿が垂れ流し=常に排尿口まわりが汚れた状態。
今は清潔な病院の療養ケージに滞在していますから心配ありませんが、
地域猫生活=外の生活に戻ったら、頻繁な消毒、洗浄が必要になります。
猫は地べたにお腹をつけて座りますから、
困ったな。
1日中家にいて外のニャースの様子を見ることなんて出来ない。
乳首に絆創膏を貼るわけにもいなかいし。
ところが、私からすれば
「奇跡」に等しいことが起こりました。
「ケージ内に置いたペットシーツの上にちゃんと移動しておしっこしてました!」
お見舞いに行った際、S先生がそうおっしゃるのです。
もちろん、最初の数回はニャースも戸惑ったに違いありません。
トイレに入り用を足してスッキリしたと思ったら、
全然違う場所から尿が出て、お腹が汚れてしまったのですから。
しかし、排尿場所で陣取るべき位置と、
汚れた部分を舐めて清潔に保つことを、すぐに学習したようです。
普段から神経質なほど毛づくろいをよくする子で、
外暮らしでも身体は常にきれいでした。
そんなニャースですから、乳首付近が汚れてしまったことに
「What the hell is this?(和訳:なんじゃあこれわあ)!」と
我慢ならなかったのかもしれません。
人間が出来ることと言えば、時々乳首まわりの毛を
カットして汚れにくくしてあげることです。
便秘に関しては不安材料はまだまだ残っていますが、
排尿はすんなりと難関をクリアし、これは驚くべき展開でした。
その②:【足の裂傷の処置】
ニャースの両足は皮膚がぱっくりと開いてしまっていました。
まるで縦にまっすぐ切り込みを入れたように。
これを縫い合わせずに固定して皮膚の再生を待ち、自然治癒させる、
というのがS先生が考えていらっしゃる方法です。
範囲も広いですし、全て縫い合わせても、皮膚が皮膚が引っ張られて
開いてきてしまうのかもしれません。
そのためには、中が見えてしまっている傷口が細菌感染するのを防ぎ、
皮膚を寄せて固定しておく必要があります。
感染予防の抗生剤を接種しているとは言え、消毒や包帯の巻き直しは
毎日必要になるでしょう。
それが家庭でできるか?
NO. うちの場合はムズカシイ。
人馴れしているニャースでも、さすがに痛かったり嫌なことをされれば暴れます。
ひとりがニャースの体をがっちりと保定し、
もうひとりが処置を行うことになるのでしょうが、
我が家の飼い猫の爪切りや投薬の時でさえ、身体をきちんと保定できず、
猫が嫌がって手を出したりくねくねし出したりすると、
「だめだ~」とすぐに手を放してしまう家人ですから、
ニャースの保定は期待できません。
加えて、雑菌の多い家庭内よりも、
病院の清潔な療養ケージの方が安心です。
手術の傷、怪我の様子、体調の変化を
逐一確認できるのも病院にいればこそ、です。
最初は目を背けたくなるような状態だった怪我も
時間の経過とともにきれいになっていきました。
次の画像は生々しい傷の画像ですので、苦手な方は
スクロールしてとばして下さい。
お尻まわりと足の状態はこうでした。
皮膚が再生し開口部が小さくなってきたところで、
先生が縫合して下さいました。
Y病院はまだ新しい病院ですが、徐々に患者さんが増え、
混みだしてきていることに気づいていました。
ニャースのお見舞いに行くたびに、スタッフのどなたかが
作業を中断して対応しなくてはなりませんから、
あまり頻繁に会いにいくのも躊躇われます。
そこで、数日に一度、ニャースの食事を持って行く際に、
病院が忙しくなければ、ニャースの様子をちらりと見せていただきました。
1ヶ月で10回ほど、でしたかね。
ニャースはだいたい、ぐでーんと横になっていましたが、
目力はあり、やつれてもいませんでした。
おやつをくれると思うのか、起き上がって「へ~」と鳴きましたが、
何もくれないとわかると、とっとと元のポジションに戻りました(笑)。
傷も徐々に目立たなくなり、皮膚も健康的なピンク色、
毛も生えそろいつつあります。
7月には退院できるのではないかと思います。
先が見えてきました。
ずっと引き延ばしているのも申し訳ありませんから、
こちらから申し出て、5月末の時点で、
いったん医療費を精算させていただきました。
40万弱。
K病院の出した見積もりのほぼ半額。
6月は5₋6日に1度お見舞いに行くことにしました。
ニャースは毎日、先生と看護師さん達と過ごしていますから、
時々顔を見せに行かないと、忘れられてしまうかもと思って。
甘やかされている感がある(笑。
順調に回復しているニャースですが、実はもう1か所、
何とかしてしまわなくてはならない箇所がありました。
PENISです。
ニャースは排尿口をお腹側に移動させてしまいましたので、
お尻に残っていればいいものは、便の出口=肛門のみです。
猫のPENISは露出していないものなので、ほとんど見ることがありませんが、
尿道再建手術の際にぽつんと残ってしまっていました。
機能的にもうニャースには必要のないものになりましたので、
これも切除していただき、縫い閉じていただくことにしました。
ニャースちゃん、完全女性化。
尿道もないのでマーキングの心配もなし。
お腹側もお股もきれいになってきています。
ニャースの退院が近付くにつれ、不安な要素もありました。
当初は、回復したら庭の地域猫に戻ってもらうつもりでしたが、
やはり、排尿口を移動したことや便秘の可能性を考え、
これからも元気で生きていってもらう為には、
外には戻さない方がいいという結論に達しました。
「そんなに何匹も家に入れたら困るよ!絶対ダメ!」
うちの人は絶対にそう言って怒るだろうなと思っていました。
ところが、意外や意外。
ニャースはもう外に戻さない方がいいかもね~。
(*思えばこの頃から既に家人のニャースびいきが始まっていたのかも。)
となると、ニャースのための場所が必要になります。
1年半前に庭から保護したトントンが室内で過ごしています。
トントンは人からも猫からも優しくされさえすれば満足する子。
我が家の飼い猫2匹は女子ですから、喧嘩の心配はありませんが、
ニャースが加わるとなるとオス2匹となり、外猫時代、
何度かニャースにやられたことのあるトントンにとっては
住みにくい環境になってしまうかもしれません。
1年半保護猫生活を送っているトントン
この地域にいるオスの地域猫のほとんどが
猫エイズウィルスキャリアだという環境で、
奇跡的に感染することのなかったトントンですから、
ニャースと一緒にして、またニャースにやられて、
猫エイズウィルスに感染したら大変です。
トントンは里親募集をしている大切な保護猫ですから。
また、飼い猫のくりことこまつも既にシニア。
徐々に免疫力は落ちてきます。
特に、くりこはひどい猫風邪持ちで、
体調を崩すことも多いので、
ウィルスの感染は避けなくてはなりません。
くりこ(左)とこまつ(右)
しかし、いくら困ったところで、
希望して下さる方がいなければ
トントンは卒業できません。
家人曰く、
「猫のためにリフォームなんてダメだから。
隔離する部屋もないんだから、ニャースには、
ケージで生活してもらうしかないでしょ。」
はいはい、そうなりますよね。
ところが、これまでに何度も経験したように、
またまた「物事には自然な流れがある」のパターンとなりました。
トントンを迎えたいというご夫妻が現れたのです。
そして、トントンが卒業していった1週間後の7月21日、
ついにニャースが退院できることになりました。
長かった入院生活にピリオドです。
よく、動物たちは私達人間よりもずっと早いスピードで時を重ね、
年をとっていくと言われています。
猫の時間は人間の時間の何時間に相当するのか?
猫にとっては8時間が一単位(1日)だそうです。
ということは人間にとっての1日24時間は、
猫にとっての3日間に相当します。
ニャースの入院生活は約3カ月。正確に言えば89日。
上記の計算でいくと、人間が約9カ月間入院していたのと同じ。
ニャースは腐りもせず(笑)よく耐えたと思います。
体に痛みがあり、うまく動けず、調子が悪い。
それはニャース本人が一番わかっていたはずです。
日々、自分の体が回復していくことも実感していたでしょう。
これは、人間側の勝手な考えでしかありませんが、
もしかしたら、ニャースは、
「時々嫌なこともあるけど、ここにいて、この人達と一緒にいたら、
可愛がってもらえるし、美味しいご飯も出てくる。
体も元通りになって元気が出てきた。」
と思って、おとなしく全てを受け入れていたのかもしれません。
To be continued.